kayobi-honnohi

『寛政重修諸家譜』

このコーナーは読みやすい本、ポピュラーな本も紹介するが、私の気分で変な本、およそ人が買わないような本も紹介する。ご容赦願いたい。

この本を楽しみで買う人がどれだけいるかとは思う。

 

名前の話というブログで少しふれた『寛政重修諸家譜』は、18世紀末の寛政期に、徳川幕府の直参だった旗本たちの系譜を長々と連ねたものである。
 



全部で27巻もある。楽しみのためなら全部買う必要はない。古本屋で1冊でもよいかと思うが、この本は近世の政治研究のためには不可欠の基礎資料のため、なかなか値段が下がらない。図書館で見ていただいても良いだろう。

旗本の家の系図が一つ一つ記されているだけ。実に膨大なものだ。

大抵は源氏、平氏、藤原氏などの出ということになっているから、先祖は清和天皇とか桓武天皇とかだ。以下、ずっと略して戦国時代の武将が出てくる。
 

ご先祖は勇ましい。武田信玄に仕えて城を守って感状をもらったり、見事に戦死したりしている。


しかし、天下泰平の江戸時代に入ると、武士というものは、とにかくやることがない。何年何月に元服して、何年何月に将軍家に拝謁する。で、親父の役職を次いで、年を取ると将軍家から服や菓子を賜る。そして隠居して、何年何月に死去。


わずか数行で、武士の人生が片づけられる。そういうのが延々と続くのだ。しかし、中には酔っぱらって喧嘩をして謹慎させられたり、番屋でばくちを打って咎められたり、勇ましい先祖とは大違いの行状の武士もいる。


この本は、幕府の公式の記録集だから、そういう不祥事で仕事を辞めさせられたり、隠居させられたりする記録も、しっかり残ってしまう。そうなれば、本当の意味で末代までの恥だ。


武士たちが不祥事を極端に恐れたのは、それがすべて記録となって永久に家系図に残ってしまうからだ。


なのに、なのに、である。人間というものは弱いものだ。慎重に生きているはずなのに、そういう不祥事が実にたくさん載っているのだ。


家から火事を出して謹慎。猟の最中に農民を間違って撃ち殺して閉門、遊女を屋敷に連れ帰ってそのまま拉致して島流し。


「小人閑居して不善を成す」というが、この固い本からは人間の素の匂いが立ってくる。暇なときに見始めると止まらなくなる。

 

私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください! ↓