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三井 誠『人類進化の700万年』(講談社現代新書)




少し前まで、人類は猿人から原人、旧人、新人へとまっすぐ進化してきた、と考えられてきた。今、この考え方は大きく揺らいでいる。

人類は250万年ほど前にアフリカに誕生した。

その系統をたどると以下のようになる。

 

原人 代表種 ホモ・ハビリス 250万年前

旧人 代表種 ホモ・ネアンデルターレンシス 25万年前

新人 代表種 ホモ・サピエンス 15万年前

 

このように紹介すると、人はホモ・ハビリスからまっすぐに一本道で進化してきたように見える。

しかし、それは生物としては非常に不自然な進化の仕方である。

多くの生き物は、進化の過程で類似の種を幾種類も派生させながら、生存競争を勝ち抜いて子孫を残してきている。

人類だけが、約束された未来に向けて、まるでエスカレーターに乗るように進化したと考える方が不自然ではないか。

今では、人類進化のシナリオはずいぶん複雑になっている。

250万年ほど前にアフリカに誕生した人類の先祖は、数十万年もするとアジアやヨーロッパに進出した。その歩みは100km進むのに数世代も要するほど遅かったが、じりじりと歩みを進めたのだ。

しかし、そうした人類の多くは途中で絶滅してしまった。自然環境の厳しさ、捕食動物の存在、そして疫病の蔓延、食料の枯渇。

けれども人類は、他の大陸への進出をやめなかった。今から20万年ほど前には、ヨーロッパでもアジアでも、人類の仲間が生活をしていた。

ネアンデルタール人、ホモ・エレクトゥス(北京原人など)など、今の人類とは種類が違う人類が、ヨーロッパにいた。

そこへ、いちばん後からアフリカを出た今のホモ・サピエンスの先祖たちが、やってきたのだ。

 

先住の人類とあたらしい人類が争った形跡は今のところ、はっきりとは確かめられていない。ヨーロッパでは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの混血の痕跡が見られる。学者の中には、今のヨーロッパ人の一部にネアンデルタール人のDNAが存在するという人もいる。

また、ロシアにもデニソワ人というネアンデルタール人と近縁の人類が、4万年前まで生存していた。最近の研究では、メラネシア人のDNAにデニソワ人と共通するものがあるという。

一方、アジアでは、ネアンデルタール人よりもはるかに昔に枝分かれした人類が、インドネシア、フローレス島に18千年前まで生きていたことが確認されている。この人類は、ホモ・サピエンスとは大きく姿かたちが変わっている。

身長は1m足らず。脳の容積もチンパンジー並みだった。動物は外敵がいないと、体が小さくなる傾向にある。これを「島嶼化」というが、脳容積が小さくなったのは「島嶼化」によるもので、知能は低くなかったという説もある。

この小さな人が、ホモ・サピエンスとどんな交流を持ったのか、あるいは持たなかったのかはまだわかっていない。

 

人類は、他の生物と同様、多くの種類を枝分かれさせながら進化していった。そしていちばん後にアフリカを出たホモ・サピエンスの先祖が、彼らとの生存競争に勝って、爆発的に個体数を増やし、全世界に広がるに至ったのだ。

 

『人類進化の700万年』は、ヒト科以前の猿人のレベルから、現在までの人類史をわかりやすく紹介している。著者は読売新聞の文化部記者。新聞記者らしくコンパクトにまとめている。

新書のボリュームでありながら、人類学の最新の問題を明快に紹介している。

 



人類は昔、いろいろな近縁種と生存競争をして勝利して、今、存在している。意識をそのように改めることで、なにがしかの部分が変化するかもしれない。

キリスト教の「原罪論」などとの関連も想起される。

「自分は何者か?」を考える一環として、読まれたし。

 

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