前回は、「同じ言葉を繰り返して使わない」ことについて説明した。さらに細かい部分について考えていこう。
時制の一致
日本語の文章は、英語などの様に時制について、厳密ではない。そのために、現在、過去、未来、過去未来などの時制が混ざっていることが良くある。たいていの場合、それでも通用するので、多くの人は気にかけていない。
例文1)
今朝は雨がしとしと降っているが、私は出かける必要があった。しかし傘がないので、雨合羽を着込んで外に出る。雨あしは、どんどん強くなる。このままではびしょ濡れになりそうだ。そこでいったん家に戻ると、車に乗って、再び出かけた。
全く問題がなさそうだが、過去形と現在形の文章が混在している。時制が混在していると、文章の純度は低くなり、全体としては文意が伝わりにくくなる。
例文1‘)
今朝は雨がしとしと降っていたが、私は出かける必要があった。しかし傘がないので、雨合羽を着込んで外に出た。雨あしは、どんどん強くなった。このままではびしょ濡れになりそうだ。そこでいったん家に戻って、車に乗って、再び出かけた。
いきいきとした表現をするために、過去の出来事を現在の時制で表現することがある。しかし、そう言う場合は、時制についての厳密な切り分けが必要だ。
例文2)
試合開始のサイレンが鳴る。選手がベンチから飛び出してくる。投手はマウンドに上がると、ぐるっと腕を回して、速球を捕手に投げ込む。ボールが内野を回る。元気の良い掛け声がかかる。
私は、今日もチームは絶好調だと思った。
現在の時制にすることで、臨場感がアップしている。しかし現在時制だけで、文章は完結できない。最後に過去時制の文章をまとめに付けることで、そのまえの現在時制の文が、筆者の「印象」「感想」であることがわかり、読者は納得するのだ。
時制について、少し神経を使うことで、文章の精度を上げることが出来る。
送り仮名
これも小さなテクニックだが、一つの文章で、同じ言葉の送り仮名が違っていると、読者は違和感を抱く。
例文3)
鮮やかな花火が夜空に上がった。私たちは歓声を上げた。次々と花火は上った。私たちの声は爆音で聞こえなくなった。でも、声をからしていつまでも騒ぎ続けた。花火が終わって、音が聞えなくなると、突然静寂が戻ってきた。その静けさが、とても印象的だったので、今も鮮かに記憶に残っている。
鮮やか、上げる、聞こえる、の3つの言葉の送り仮名が2種類使われている。書き手は問題ないと思っても、読み手は、違和感をもつ。
パソコンのワープロ機能では、送り仮名は自動的に選択されます。そのために、あまり注意を払わないが、往々にしてこういうミスを犯してしまう。
例文3‘)
鮮やかな花火が夜空に上がった。私たちは歓声を上げた。次々と花火は上がった。私たちの声は爆音で聞こえなくなった。でも、声をからしていつまでも騒ぎ続けた。花火が終わって、音が聞こえなくなると、突然静寂が戻ってきた。その静けさが、とても印象的だったので、今も鮮やかに記憶に残っている。
こうした小さなミスを一つ一つチェックしていくことで、文章はどんどん純度が上がり、伝わりやすくなる。