hibikore


IPPONグランプリ」は、大喜利ということになっている。お題に対して出演者がいろいろな答えを出すという点ではそうなのだが、例えば「笑点」などとは全く趣が違う。

「笑点」は、お題に対して予定調和的な答えを出す。予測がつくような答え、「うまいこと言う」ような答え。演者が全員噺家だから、落ちの付いたきれいな答えも多い。あからさまなことを言えば、「笑点」の答えは、あらかじめ噺家と放送作家が相談して作り込んでいる。「作り物」である。それでも古いお客は喜んでくれる。ある意味「様式美」のような世界。
 

これに対し、「IPPON」は、「予測されたら負け」である。観客も、演者も予想できないような答えを即座に出さなければならない。その答えは、不即不離。お題との距離感が近すぎると「笑点」的になるし、遠すぎると理解できなくなる。その微妙な境界線あたりが、いちばんインパクトが強い。昨日の出演者でいえば、最も距離が遠いのが、もう中学生、その内側に堀内健、そして境界線からやや内側にカンニングの竹山、他の出演者はその間に並んでいる感じだった。


IPPON」では、評点を与えるのは聴衆ではなく、同じ出演者、芸人だ。一般の聴衆では、安定した評価ができないからだ。それくらい、判定は微妙で難しい。一般聴衆とは別に、タレントやミュージシャン、俳優などがセレブ聴衆として客席にいるが、恐らく二割くらいの連中は、あまりよく分かっていないのではないかと思う。前回でいえば、具志堅用高、今回ならローラ。この笑いはほとんど運動神経のような反射能力が必要だ。

IPPON」に出演することができるレベルの芸人でなければ、判定は難しいように思う。


ただ、出演者が同じ出演者を判定することで、バイアスが生じてしまう。実力者の千原ジュニア、バカリズムが、9まではいくが、最後の1ポイントが入らなかったのは、たまたま最後の1つのボタンを余らせている評者になった人間に、ある種の「思惑」が浮かんだからではないかと思う。


また、評価の軸は、お題が出題されてから時間経過とともに微妙に揺れ動く。“暖気”ができていない最初の内は、パワフルな答えが通りやすいが、だんだんに微妙なネタ、距離の遠い答えも反応されるようになる。


以前にも言ったが、
ノリとしては昔の糸井重里「万流コピー教室」や、NHKの「携帯大喜利」に近いのだが、これをプロの芸人が即席でやる点が大きく違う。人気者でも、絶対に出演できないお笑い芸人もいるだろう。

常に、合格ラインが揺れ動く、これほど難しい“競技”もちょっとないと思う。
 



さて、今回は、ロバートの秋山がチャンピオンになった。これは、バカリズムや千原ジュニア、設楽統など「理に詰んだ」「なるほど思わせる」タイプの演者に、聴衆がやや飽きたことが大きかったと思う。コント的な演技力が評価されたのも始めてだったように思う。ただ、この傾向が強調されると、大げさな臭い回答者が出てきてしまうだろう。

 

IPPON」の発案者は高須光聖と松本人志なのだろうが、恐らく「IPPON」は、発案者の思惑を超えて流動している。そろそろ松本人志が出す「模範解答」が苦しくなってきたように思えた。評価はできるだろうが、出演者としては厳しくなっているのではないか。

 

この番組の身上は真剣勝負だ。失敗すれば、前回の平成ノブシコブシ吉村崇のように真剣に痛手を感じることになる。出演者にとっては、これほど厳しいステージはないだろう。

上質のスポーツ中継のような面白さがある。どんな方向に動いていくのか、今後も目が離せない。

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