むしろこういうミスが今まで一度も起こらなかったことが不思議ではある。しかし、それが全勝力士と横綱の結び前の相撲で起こってしまうのが、今の相撲界の運の悪さだ。
○西横綱日馬富士―西関脇豪栄道● (寄り切り)
豪栄道の息で立った横綱。頭で当たるが、豪栄道の右が入る。そのまま前へ出る豪栄、俵に足がかかった横綱は、右へ回り込む。ここを先途と寄り立てる豪栄、左足右足ともに俵の上に乗った横綱。左上手投げを打ちながら回り込んで体勢を立て直したところで、向こう正面時計係の湊川(元大徹)が、右手を大きく上げた。式守伊之助が四つに組んだ両力士の体を抑える。
日馬富士の足が土俵外の蛇の目に付いたとして、勝負あったとしたのだ。
しかし、足は飛んでいなかった。審判たちは土俵中央に集まり協議。蛇の目を確認し、VTRも確認した。
鏡山(元多賀竜)が、マイクを持つ。
「ただ今の協議を説明します。日馬富士の足が出たと勘違いし、向こう正面審判が手を上げてしまいました。従ってもう一度やり直しという形でやらせていただきます」
事態を余すところなく説明した。両力士の体が動いていなかったのなら、水入り後のような再スタートもできただろうが、まだ両力士は動いていた。やり直ししかなかっただろう。
それにしても鏡山は「取り直し」ではなく「やり直し」と言った。相撲の勝負がついていなかったのだから、確かに「取り直し」ではおかしいのだ。よくぞ機転が利いたものだ。
「やり直し」の一番は、豪栄道の勢いを速い当たりで止めた横綱が、突っ張りで攻めたてる。豪栄道が反撃に出たタイミングで、左を深く差して一気に寄り切った。
憮然とした表情だった。
審判は今の制度では、「勝負あった」と思った時点で審判は相撲を止めることができる。今までこの種の「誤審」が起こらなかったことが不思議なくらいだ。
勝負が決まっていない力士を審判が止めるのは、相撲史上初めてではあっただろう。
一番目は、豪栄道にやや分があったから気の毒だが、筋道の通った判断だったと思う。