daikoji-01

赤いトタンの覆い屋根を見て、あのお寺だとすぐにわかった。昨日のNHK「クローズアップ現代」に、滋賀県甲賀市水口の大岡寺が出ていた。



このお寺は白鳳時代に淵源がある古刹だ。何度も焼失を繰り返したが18世紀に再建され、水口藩主加藤氏の菩提寺となった地域の中心的な寺だ。中世には鴨長明がこの寺に滞在し発心したと言われる。

この寺院の本尊、重要文化財の十一面観音像が、寺の改修の際に檀家に「預かってやる」と車に乗せられて持ち去られ、以後、その檀家ごと行方が杳として知れないと言うのだ。

 

この寺院は、古刹らしい迫力はあるが、屋根瓦は永らく葺き替えられることなく老朽化し、建物も破れている。

境内の背面には道路が、本堂の庇すれすれに通っている。寺院が境内地を切り売りして糊口をしのいでいることがこれでも見て取れる。

 

daikoji-02
 

 

寺を檀家が維持し、経済的に支援する「寺檀制度」の衰退とともに、寺院は経済的な基盤を失っている。たまたま多くの檀家に恵まれた寺や、ビジネス手腕に長けた寺は維持することができるが、過疎地など高齢化が進む地域では寺院は経済的に追い詰められている。

大岡寺のような、地域を代表する古刹であっても人々の関心が払われなくなれば、消滅するだけなのだ。

 

檀家によって持ち去られた仏像は、都内にあることがわかった。住職と妻は上京して仲介業者に会ったが、買い取りに1億円以上かかると言われてしおしおと引き下がった。老齢で、すでに歩行も困難と思われる住職の姿は痛々しかった。
 



こうした仏像は、美術商、ブローカーなどの手を経て、主に中国人の手元に渡っていると言う。

番組に拠れば、中国では今、日本美術ブームなのだそうだ。仏像などは高値で売買される。日本で重要文化財や国宝に指定されているものであれば、億単位で取引されると言う。

 

中国は日本文化の源流ではあるが、度重なる戦乱と、共産党政権による伝統破壊によって、文化遺産の多くは跡形もなくなっている。

彼らが失われた中国文化のよすがを求めて日本美術品を買い求めているのならまだ救われるが、そうではない。

土地、建物のバブルがはじけそうになる中、新たな投機対象として日本の古美術に目を付けているのだ。鑑賞するのではなく、価格が上がれば転売しようとしている。

日本と言う他国の文化遺産を横領すること、信仰の対象を人々から奪うことへの罪の意識は全くない。

永年悪政になれた彼らは、社会や公共のモラルを失っている。自分の利得だけを考えている。
中国は社会主義ではなく、拝金主義国家と言って良いのではないか。 
 

拝金主義者が文化を食い物にするのは、中国だけでなく日本でも行われていることだ。日本の仏像を中国人に横流しているのは、日本人なのだ。

もし彼らが、「寺院」という「鉱脈」を発見したとすれば、大変なことが起こるだろう。

 

日本には75千もの寺院がある。その多くは江戸時代に建てられた。日本の感覚では珍しいことではないが、中国や世界の基準でいえば、それは歴史的価値がある古さだ。

どこにでもあるお寺の普通の仏像のなかにも、江戸時代初期や室町時代に建立されたものがいくらでもある。そうしたものを「金」に変えようと思えば、いとも簡単な話である。

 

75千の寺院があると言ったが、住職の数は3万人足らずである。大半の寺院は他の寺院の住職が兼務している。中にはそれも難しくて地域で守っている寺も多い。

最近はコンクリートの宝蔵を立てる寺も増えてきたが、その資金がない寺も多い。

本堂に鍵がかかっていなかったり、破損していて簡単に侵入できる寺も多い。

 

また日本には仏堂も多い。恐らくは数十万の単位であると思われる。仏堂には寺のように僧侶は住んでいないが、仏像が安置されている。四国の仏堂の中には、棟札によって奈良時代まで歴史をさかのぼるようなものさえある。こうした仏堂は実質的に無防備に近い。

daikoji-03

 

さらに言えば、日本には11万もの神社がある。その多くは神職など居ず、地域が管理している。その中にも貴重な神具や仏像(神仏習合の名残で神社には実に多くの仏像が収蔵されている)、絵馬などの文化財が収蔵されている。

 

拝金主義者どもが、これに目を付ければひとたまりもないことと思われる。

人心が荒廃し、地域のコミュニティが希薄になり、モラルが失われる中で、私たちは先人が大切に伝えてきた「宝」を粗略にしようとしている。
 



パワースポットだの、ヒーリングだの、ありもしないくだらない迷信を信じて寺社を訪れる人々は、境内の建物や、石碑や、収蔵物をよく見てほしい。それらは先人が土地を愛し、先祖を尊崇して一つ一つ遺してきたものだ。どれひとつとっても「私が幸せになるため」に作られたものではない。
そういうものに目を向け、その意味を考える方が、はるかに「心の健康」に結びつくと思うのだが。 

 

NHKによれば国宝1点を含む86点もの重要文化財の所在が不明になっていると言う。

それは「日本」という国が永年培ってきた「ゆとり」「潤い」が枯渇しつつあることを象徴している。

何を見ても「金」に換算するようになっては、人間もおしまいである。

日本人は、なぜこの国に生まれ、生きているのかをもう一度考えるべきだと思う。

 

私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください! ↓