先日、ある行政機関の会合に出た。農業生産者がビジネスに進出するのを応援するような会だ。
一応専門家の座る席に座って、パネラーの話を聞いていた。
隣にフードコーディネイター1級のおじさんがいたので、昨今話題のホテルの料理の偽装について聞いてみた。
「料理人のレベルが低すぎるよね。食材の表示がこれほど厳密になっているのに、いい加減なことがまかり通ると思っている」
「でも料理の偽装と食品の味や安全、安心は次元が違うでしょ?」と私が聞くと。
「そうなんだ、●●産とか、手作りとかいうのは、食品の実態とは何の関係もないんだ。おいしいかどうかは、食材の鮮度や味付け、調理で決まる。産地なんて誰にもわからないし。そもそも普通の人が、食材の味の差なんか分かるはずがないんだ。本当の芝エビでエビチリ作ったら食えたもんじゃないよ。バナメイだからおいしいんだ。でも、そう書いたら売れないから、芝エビって書くんだ」
横からマーケティングの専門家が言う。
「だいたい、ネーミングがおかしいん。食材に好き勝手にブランドをつけておいて、後で偽装問題が発生している。もともといい加減なものを作っているのに、偽装もへったくれもないはずだ」
私の相棒のデザイナーが言う。彼はパッケージデザイン業界のトップランナーだ。
「普通の人が食べ比べたら、絶対に添加物や化学調味料入りの食べ物の方がおいしいっていうんですよ。僕らの世代はそれに慣らされているから。本当に無添加、天然素材の食べ物を食べたら、ほとんどの人は『薄い』とか『物足らん』とかいうんです」
私は少しだけ食肉関係の流通企業にいたことがある。牛肉は販売するときは「神戸牛」「松坂牛」「前沢牛」などの表記をするが、例外的な肉を除いて流通段階では「A5」「A4」など歩留り度のランキングで流通する。
「さすが松坂牛は、味わいが違うね」とかいうおじさんはたくさんいるが、ハナから味なんかわかるはずがないのだ。
最近は「A5」などの表示が一般的に使われるようになって、「○○では米沢牛のA5を使用」などと言っているが、大手のミートパッカーを経由した肉は、産地ごとの差異は殆どない。
もちろん、独自の生産方法で食材を作っている生産者は存在する。私は毎月そういう生産者を取材しているので、それは知っている。
しかし、それは食材の生産量のほんの数%に過ぎない。
ごく一部が流通するだけだ。
何千何万と販売される食品とは無縁の話だ。
では、それらの食品が全て偽装をしているのかと言えばそうではない。牛肉でいえば地域の生産者の努力とは無縁で生産されている肉であっても、一定の基準を満たしていればブランドを名乗ってもOKなのだ。
それを食べて「さすが、近江牛は違う」などというのは、こっけいな話なのだ。
ホテルのレストランでも1万円以上の料理を食べれば、本当の食材を味わえる可能性は高いと思う(それでも偽装はあるだろうが)。
しかしホテルバイキングや、パック旅行の料理や通販やおせちは、そういう料理とは別物だと考える方が良いだろう。
ブランド貸しをして、別の業者が大量生産していると考えた方が良いのだ。
そういうインチキをやっている店はけしからんとは思うが、分かりもしないのにブランド食品や特定産地食品を有難がる消費者にも問題があるのだ。
私は老舗の洋食屋を何軒か取材したことがあるが、ある店はごく普通の肉屋からひき肉を仕入れていた。国産牛だが、和牛ではなくホルスだった。価格的に引き合わなかったからだ。
しかし合挽肉を作るときは。肉質を見て、その都度配合を変えていた。また、ハンバーグを作るときは客の顔を見てから握って(その店はハンバーグを作ることを「バーグを握る」と言った)、その場で調理していた。
「作りたてがうまいんです。冷蔵庫で保管したりしたら、香りが無くなります」
洋食屋の親父は言った。
和牛使用とも、手作りとも書いていないが、すこぶるおいしいハンバーグだった。
一流ホテルのブランドで和牛の端材を使って大量生産し、冷凍庫に保管されたハンバーグとは天地ほども違った。
我々はブランドに惑わされずに、本当に心から「おいしい」と思ったものを選択すべきだ。
ブランドや産地はみんな偽装だ、少なくともおいしさとは関係がないと認識すべきだ。
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消費者はもっと自分の舌に正直になるべきだと思います。