コピーライターという仕事は、文楽の太棹(三味線弾き)に似ている。デザイナーやカメラマンのデザイン、写真に合わせて言葉を付けることが多いからだ。
毎月いくつも取材をする。そのたびに数日遅れでカメラマンから写真が宅ファイル便などで送られてくる。それをダウンロードする。
ファイル転送サービスはいくつかあって、その形式はさまざまだが、あるときあまり付き合いのないカメラマンからのデータをダウンロードするときに「Baidu IMEがダウンロードされました」という告知が出た。

私は中国系のサービスは使わないことにしているので、すぐにアンインストールした。
しかし、その後も何度も知らない間にダウンロードしてしまっているようで、ワードを使っていると、突然IMEのタスクバーが「Baidu IMEに切り替えますか?」と聞いてくるようになった。いつの間にかBaidu IMEに切り替わっていたこともある。

その都度アンインストールをすることになる。
アニメ風のお姉ちゃんの泣き顔が出て「どうしてもアンインストールするんですか?」と聞いてくる。その都度「勝手に入り込んどいて、何言うとんじゃ!」と毒づきながら消していたのだが、一昨日の報道によると「Baidu IME」は初期設定でパソコンに打ち込まれたほぼすべての情報を利用者に無断で外部に送信していたことが判明した。
Baidu側は、ユーザーが「Baidu IME」「Simeji」で入力した情報は、原則として、「バイドゥ サービス利用規約」に沿って取り扱っており、ユーザーの入力情報を同社サーバーに送る場合は、ログ情報の送信前に許可を取っているが、バージョンアップ時の実装バグによって、一部のログデータが送信されていたと説明した。
そしてこの部分を改善した最新バージョンを急きょリリースしたと発表した。

中国の企業が信用ならないのは、こうした部分だ。日本やアメリカの企業の感覚ならば絶対やらないことでも、中国ならばやりかねない。汚い手を使ってでも日本人のニーズを探りたい。ひょっとすると、日本人の個人情報を入手したいとまで意図していたかもしれない。
金儲けがしたい、利益をふんだくりたい。社会全体の倫理規範が溶解し、拝金主義が横行している国ならではの、モラルハザードが起こっているのだ。

中国は今、自分たちを中心とする「経済圏」を作ろうと躍起になっている。かつての「帝国」の栄光を取り戻すというような話ではなく、肥大化する国内の「成長圧」を海外に振り向けて、市場を確保し、経済的な支配体制を作ろうとしているのだ。
中国が最近日本に対して言う「国際秩序を乱す」とか「中国は地域の安定を目指している」は、「日本は中国を中心とする秩序に入りなさい」という前提から発せられているのだ。

世界史には1つの強国が経済的、政治的(昔は軍事的)に圧倒的な存在となり、その結果安定した秩序が生まれることがある。
古代にはパックス・ロマーナ、ローマによる「平和」があった。近世にはパックス・ブリタニカ、大英帝国による「平和」があった。そして今はパックス・アメリカーナ、唯一の超大国アメリカによる「平和」だと言われている。



国家が大きくなるとき、為政者は世界秩序の頂点に立ちたいと思うのだろう。かつて、日本も「大東亜共栄圏」というパックス・ジャポニカを作ろうとした。ドイツも「第三帝国」というパックス・ゲルマニアを作ろうとした。国家はそういう「夢」を見るのだ。
しかし、うまくいかなかった。武力や経済力、つまりは国力の不足もあっただろうが、それ以上に「普遍的な正義」が存在しなかったことが大きいのではないか。

ローマは良く知らないが、19世紀のイギリスも、20世紀から21世紀のアメリカも、もちろん自国の国益のために他国を搾取したのには変わりはないが、両国ともに、ビジネスや政治には、客観的なルールがあった。公平性があった。「最善」とは言えないかもしれないが、少なくとも「小ましな正義」が存在したのだ。

残念ながら中国には「小ましな正義」は存在しない。他国どころか自国の民の利益も守ろうとはしない。国家の中に「共産党」と言う別の国家がある。ビジネスのルールも捻じ曲げられている。企業もビジネスルールではなく「山賊のルール」で動いている。

誠に卑近な例だが、「Baidu IME」の姑息な“ビジネス”も、こうした中国の、自分たちのことしか考えない「みっともない正義」の表れなのだろう。

パックス・チャイニーズはうまくいかないだろう。
日本やドイツのようにな末路をたどるかどうかは分からないが、中国は世界中に迷惑をかけて高転びに転ぶのではないか。



 
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