最近は野球を追いかけるのが忙しくて、ライフワークの「寺回り」が滞っているが、それでも出張した際は必ず寺院を回って写真を撮っている。
「寺リスト」の私にとって狂おしいのは「寺町」だ。
「寺町」とは、お寺がある町ではない。ほぼ寺院だけで構成されている街区を「寺町」というのだ。
しかし、お寺が集まっているだけでは「寺町」とは言わない。
例えば、京都の妙心寺などは本山を中心に48もの「塔頭寺院」が取り囲み、境内を歩いていると江戸時代にタイムスリップしたような錯覚を覚えるが、妙心寺一帯を「寺町」とは言わない。これは「妙心寺」という一個のお寺と見なされる。
類縁関係がある場合もあるが、個々に独立した寺院が寄り集まって街をつくっている様なものを「寺町」と言う。

寺町は農村地帯にはあまりない。繁華な都市部にある。というより都市部に為政者によって「作られた」のだ。
「寺町作り」の名人は、豊臣秀吉だ。戦国時代末期、大坂は石山本願寺を中心とする宗教都市であり、織田信長や豊臣秀吉に頑強に抵抗したが、秀吉は石山本願寺を屈服させた後、跡地に大阪城を築城するとともに、京都に本願寺本体を追いやり、残った配下のおびただしい数の寺院を生玉神社から四天王寺の間に押し込めたのだ。
こうした寺院は、元をたどれば様々な地域からやってきた寺院だが、これらを地方に戻すと反乱の拠点になりかねないので、大坂にとどめて一括管理したのだ。
寺は構えが大きく、多くの人を収容できるので、軍事施設にも転用できる。大坂城の防御のためも考えて作ったのだ。
私は多分、秀吉には、寺院の反逆が起こったら、寺町に火をかけることで一気に焼き払うことができる、という思惑もあったのだと思う。

通天閣から見た天王寺区の寺町界隈 大きい屋根は一心寺

teramati-01


秀吉は京都にも寺町を作った。御所や二条城の防御のために寺を集め、四条河原の近くに南北に長い寺町を作った。

京都市左京区新洞学区の寺院を示した図

teramati-02


秀吉の寺町の考え方は、徳川政権にも引き継がれた。
全国の大名たちも、自らの居城、陣屋の近くに寺町を作った。

だから寺町にあるお寺は、歴史的には古くても、建物はせいぜい江戸初期だ。江戸時代の為政者の好みを反映して、入母屋造りの本堂、切妻の庫裏、唐破風など、一定のパターンがある。
また、寺町のお寺は為政者によって強制的に集められたので、宗旨はばらばらである。日蓮宗の寺の横に浄土宗の寺があったり、禅宗の寺があったり。
中世まで各宗派の寺院は血で血を洗うような抗争を続けてきたが、この時期から爪を抜かれた猫のようにおとなしくなる。「寺町」もそうした傾向を助長したのではないか。

今の県庁所在地と昔の藩の政庁があった場所はほぼ重なる。だから多くの県庁所在地には「寺町」がある。横浜市や神戸市、宮崎市は明治以後に出来た都市なので、寺町はない。

寺町には、国替えでやってきたお殿様の菩提寺も組み入れられた。大抵、一番良い場所に広い境内を有している。その周辺に家臣の寺も建った。中には、藩ができてから寺町の寺院に帰依する家臣もいた。
そして町民や郷士など、昔からその地にいた人々も寺町の寺院の檀家になった。
お彼岸やお盆などになると、寺町にはお殿様の家族から家臣、町人までが参拝する。
寺町は支配者階級と被支配者階級が交流する場にもなったのだ。

江戸幕府はすべての人がいずれかの寺院の檀家でなければならないと規定した。これを「寺檀制度」と言う。キリシタンを根絶やしにするためだが、これが実質的な戸籍制度となった。すべての人は寺院に「過去帳」という「戸籍」を登録しなければならなくなったのだ。
お寺はにわかに公的な色合いを帯びるようになる。寺院は「役所の住民課」のようになった。
各藩は寺院を経済的に支援した。権力を帯びたことで居丈高になった僧侶もいた。檀家に対し寺院の修復などの名目で金品を要求する寺院もあった。
日本の仏教は、浄土真宗が妻帯し子を成すことを認めた時点で、世界から見れば異端になったと言えるが、寺町では他の宗派の僧侶も実質的に妻帯し、家族を寺に住まわせていた。ただし、世間体を憚って妻女を「大黒」と言った。

そういう形で寺町の寺院は「世俗化」したが、同時に「寺子屋」を設けるなど地域の発展にも貢献した。

寺町は、多くの藩でお城や陣屋を除いては一番立派な建物が立ち並ぶ一帯になった。桜や紅葉なども植えられるようになり、気候が良くなると人々が散策する街になった。
周辺には、食べ物屋ができたり、歓楽街が生まれたりした。

明治維新以後、寺町の多くは一般の住宅やオフィスに代わった。また空襲で多くが焼けたが、それでも多くの寺が生き残り、寺町の面影を今に伝えている。

寺町は江戸時代の侍や庶民の息遣いを今に伝える町なのだ。

寺町の革新、一心寺山門

teramati-03


私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください!


好評発売中、アマゾンでも




広尾晃 野球記録の本、アマゾンでも販売しています。