別に秘密にしているわけではないが、私は東京に行くとわざわざ食べに行く食べ物がある。予定の中に、その店に行くことを組み込んだりする。
東京の方にはおなじみだろうが、浅草橋に「水新菜館」と言う中華料理屋さんがある。ごく普通の庶民的なお店だが、ここの「あんかけ焼きそば」が大好きなのだ。

もう10年くらい前、夜、偶然入ったのだが、店を切り盛りしている娘さんがきびきびしていた。こういう店はうまいのだ。
周りの人がみんな「あんかけ焼きそば」を食べているので、注文すると「あんやき一枚」と厨房に声をかけた。
で、出てきたのがこういうやつ。

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「あんかけ焼きそば」を、中華そばを炒めて、そこに八宝菜の具をかけたものだと思っている人は多いと思う。
ちっちっちっ、ちっちきちー(花の応援団)
違う。似て非なるものだ。

中華そばを加熱して、「あん」をからめた野菜炒めをかけているのはその通りだが、麺の加熱の仕方が違う。
料理人は中華麺を円盤状に成型し、それを熱した中華鍋の上でくるくると滑らせる。まるで遊んでいるようだが、そうしているうちに、熱い油が鍋肌から麺の表面にじわじわと沁み込む。
そして鍋と接している部分だけはこんがりと焼けて固くなる。

料理人はおもむろに麺をひっくり返してもう一方の麺も熱する。

で、皿に移すや否や、熱々のあんをかけて、さっと持ってくるのだ。

スプーン一杯のからしを皿になすりつけるのはお約束。

岡のようになった皿に箸を突き立て、食べていくのだが、
実は、この岡の中では劇的なことが起こっているのだ。

中華麺は、もともと自由奔放にあっちこっち向いていたのだが、固められ、熱されたことで異様なテンションになっている。
人間でも熱くなると、団結力が高まるが、麺たちも「進め一億火の球だ」みたいに固まろうとしている。

そこへ「あん」という侵略者が入ってくるのだ。麺の中で、一番熱せられて表面が固くなった部分は「あん」を必死に食い止めようとするが、そこまで熱くなっていない所はずるずると侵入を許す。

お客の目の前に出された「あんかけ焼きそば」は、まるで帝国主義国家の侵入を許した植民地のように混乱している。

これがおいしいのだ。ある部分は「あん」にすっかり懐柔され、からめとられてめろめろになっている。ある部分は「帝国主義は出ていけ!」とばかりに団結を保ち、かりかりのままだ。
その中間のところあり、ときには「あん」が全く侵入していないところあり。
一皿の「あんかけやきそば」で「麺」と「あん」の様々な「人間模様」が展開しているのだ。

さらに中盤戦に差し掛かったころに、私はからしを投入する。これは国連のようなものか。侵略者の凌辱を許すまいと、新たな勢力が介入するのだ。
しかし多くの紛争地と同様、その介入はますます事態を複雑にする。
「あん」と「からし」が癒着してピリ辛味になって、麺の味がさらに複雑になる。

食べ終わる頃には
「国際紛争は難しい問題だなあ」
でも
「『あんかけ焼きそば』は美味しいなあ」という二つの真理を悟るににいたるのだ。

しかしどんな「あんかけ焼きそば」でも美味しいわけではない。麺が弱すぎて、箸でつつくとすぐにほどけるのは良くない。「愛国心」が足りない。
また最近はやりのおしゃれなチャイニーズレストランみたいに「あん」が薄味であっさりしすぎるのも良くない。
かといって関西の競馬新聞ばっかり見ている親父が邪魔くさそうにやってる中華料理店みたいに「あん」が濃すぎるのもだめだ。
「あん」と「麺」がしっくりよく合うコンビネーション、なかなか難しい。

いろいろなところで「あんかけ焼きそば」を食べるが、やはり「水新菜館」が一番ではないかと思っている。

ところで私は今、高松にいる。四国アイランドリーグplusの試合を見に来ている。
球場は高松市の中心から10㎞ほど西の山の中にある。毎日レンタサイクルで峠を越えてえっちらおっちら通っているのだが、その道すがら、こんな看板を目にした。

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「あんかけ専門店」、何だろうか。
「あん」の種類が多いのだろうか、中華風、洋風、和風、インド風、いろいろ味わえるのだろうか。
それとも「あんかけ」料理がいろいろあるのだろうか。あんかけトースト、あんかけごはん(中華丼?)、あんかけアンパン、あんかけ時次郎(知らんか、てなもんや)、あんかけコーヒーなんかもあるかもしれない。

考えると眠れないようにあったので、行ってみた。
結論、ごくふうの中華料理店でした。
でも、「あんかけ焼きそば」が一押し。
食べてみた。なかなかのもんだった。

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「あん」は程よい帝国主義、「麺」もやや細めの愛国心のあるかたまり。
「あん」にシャンツァイが入っているのは珍しいと思ったが、悪くはなかった。

「あんかけ専門」と歌うだけのことはあり、満足できる一皿だった。

「あんかけ焼きそば」のおいしい店をまた一つ見つけることができて、よかったよかった。


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