来週日曜から九州場所が始まる。もう1年が終わるのか、と言う感が強い。
今年は横綱が1人、大関も1人増えた。大相撲の主役を担う力士が増えた点では、収穫のあった年と言えるかもしれない。

しかし、相撲内容は、明らかに劣化している。具体的に言えば、大相撲が減った。あっけなく勝負がつくことが多くなった。
その上に、力と力のぶつかり合いや、技比べなど大相撲本来の魅力を味わうことができる相撲が少なくなった。

力士が巨大化し、極論すれば「立っているだけで精いっぱい」のような体形の力士が増えたことが大きいだろう。土俵は明らかに狭くなっている。直径を広げる必要があるのではないか。

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しかしそれ以上に深刻なのは、力士が「楽して勝つ」ことにためらいを感じなくなったことではないか。
外国人、日本人と言う区別は軽々にしたくないが、モンゴルをはじめとする外国人力士たちは上昇志向が強い。「勝つ」ことによって富を得たいと言う意識が強い。

日本人力士であれば、多かれ少なかれ「相撲とはかくあるべし」的なイメージは持っている。最近主流になりつつある大学相撲の出身者は、先輩たちから「あるべき論」を吹き込まれているはずだ。それが、彼らの「相撲観」を形成していると思われる。

外国人にはそうした「下地」がない。彼らとて相撲教習所で「大相撲の歴史、伝統」について学びはしただろう。親方や後援者から「大相撲の心」を教わったかもしれない。
しかし恐らくは「要するに勝てばいいんだろ」と理解したのではないか。

深刻なことは、「勝てばいい相撲」を取る力士が、今や横綱になっていることだ。

横綱は今、3人いる。すべてモンゴル人。このうち白鵬は、朝青龍ショックの後、一人横綱を長く経験し、日本人ではないが「大相撲の屋台骨を背負って立つ」自覚を持っていることと思われる。

しかし日馬富士、鶴竜の2横綱は実力でも品格でも大きく劣っている。
有体に言えば、この2人は白鵬によって横綱にしてもらった。二人とも横綱昇進を決めた場所では、それまで歯が立たなかった白鵬を破って優勝を決めている。白鵬が星を譲ったとまでは言わないが、何としても昇進を阻止すると言う気合があったとは思えない。

この二人の横綱は勝ち星こそ規定を上回ったが、横綱にふさわしい相撲を取ってきたわけではない。

日馬富士は相撲の流れを一切無視していきなり上手を取りに行くことが多い。とにかく相手を捕まえてねじ伏せようとする。うまくいけばいいが、小柄なだけに捕まえられることも多い。そうなると後は運動神経恃み。じたばたと暴れながら何とか勝機をつかむ。
危なっかしいし、横綱の力量は感じられない。

しかし鶴竜に比べればましである。この横綱は「楽して勝つ」ことばかり考えている。
立ち合いから相手の圧力をかわし、引き技、はたき技を掛けることばかり考えている。

横綱になってから3場所の決まり手。引き技はピンク、攻め技(投げ技も含む)は無色、その他はブルーで色分けした。

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新横綱の5月場所は初日から3日連続で引き技。5日目も引き技。新横綱としてうまく滑りだしたいと言う思いからか、前半戦に引き技が集中した。

7月場所はまた初日に引き技が出た。中日までに引き技が3番。

9月場所はさらにひどかった。
2場所で10勝、11勝と横綱としては不満足な星数に終わり(しかも不戦勝と反則が各一)、批判を浴びたからか、9月は“得意技”の引き技を駆使して初日から8連勝。以後も豪栄道、稀勢の里という実力者に引き技で勝った。

15番で11勝、そのうち実に9勝が引き技。目を覆いたくなる相撲内容だった。

写真は遠藤を肩透かしで仕留めようとする鶴竜

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引き技がすべて悪いわけではない。相撲の流れの中で、相手の体のバランスが崩れているのを見逃さず技をかけるのはありうべきことだ。
しかし鶴竜は立ち合いから“引いて勝つ”ことを明らかに狙っている。相手の裏を欠こうとしている。
186cm154kgの横綱がする技ではない。まさに横綱ではなく“引き綱”である。

憂慮すべきは、先場所13日目、日の出の勢いで上がってきた逸ノ城と鶴竜の一番。
圧倒的な破壊力で攻めようとする逸ノ城に対し、鶴竜は闘牛士宜しくかわして勝とうとした。しかし逸ノ城は、鶴竜の動きを冷静に見越して逆に鶴竜を叩き込みで仕留めたのである。

逸ノ城は「横綱なんてチョロイもんだ」と思ったかもしれない。また「勝てば、何をしてもいいんだ」と思ったかもしれない。
「相撲を教えてやる」べき横綱が、新入幕力士の反面教師になったのだ。

横綱審議委員会は、自分たちに楯突く朝青龍を引退に追い込んで「逆らうとえらい目に遭う」ことを世間に示した。かほどに見識の高い、権威ある組織のはずだが、鶴竜に対してなぜ物言いを付けないのか。
あんな相撲で星を稼ぐ力士に、横綱を締めさせて良いのか。
今場所の取り組み次第では、鶴竜や他の力士に厳重注意をするなど、横綱、相撲の権威を維持するために動くべきではないか。


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