来るべきものが来た。と言う感じだ。イスラム国はついに極東にある、縁もゆかりもなさそうな国に牙をむいた。そうしてほしいと、現政権が望んでいたからでもある。

イスラム国の知略は、従来のイスラム過激派とは比較にならないほど深い。これまでの過激派は、自らの周辺のことにしか気が廻らなかったが、イスラム国は世界情勢を視野に入れて策略を練っている。
日本のジャーナリスト湯川遥菜氏(自称ジャーナリストかも知れないが)を拘束したのは昨年の8月だっかが、これを「駆け引きの材料」としてキープしたのだろう。

彼らは、アメリカの言うことは何でも聞く安倍政権が高い支持率で信任され、対イスラム国戦略に合計2億ドルを拠出したことも知っていた。
そして、その安倍首相がイスラムの仇敵であるイスラエルを訪問するに及んで、この脅迫に出たのだ。

日本の国の一部の人々は「普通の国になりたい」「西側諸国の一員になりたい」と唱えていたが、ようやくそうなったのだ。

イスラム圏はこれまで、日本を友好国だと見ていた。
1905年にロシアを打ち砕き、1940年代には欧米を相手に戦争をした。
今、西側諸国と対峙する人々にとっては、日本は西側諸国に楯突いたアジアの先輩国であり、連帯すべき国だと思われていた。

それは多分に「無知」から来ているが、イスラム過激派も日本を相手にする気配はなかった。
しかし、安倍政権の親米一辺倒の政策、そして再軍備へ向けた強い流れの中で、イスラム国は日本を「アジアの一国」ではなく「もっとも脆弱な西側国家」と見なして、毒牙にかけようとし始めたのだ。

威勢よく再軍備を叫び、戦前の軍事大国の復活を熱望していた人々は、この事態をどう感じているのか。

安倍政権は恐らく昨秋にはこの事態を把握していた。しかし何もすることができなかった。
時限爆弾を抱えたまま安倍政権は強気を装っていたのだろう。

例によって「そんな危ないところに行くやつが悪い」「自己責任だ」という江戸時代のような責任論が巻き起こるだろうが、リスクを冒して取材をしないと真相はわからない。それをするのがジャーナリズムの責務だ。
安全な立場にいて「自己責任論」を振り回すのは誰でもできるが、真相を知るために命を投げ出すことは限られた人にしかできない。
彼らを助ける義務が日本の国にはある。

今、西側諸国は「馬鹿の連鎖」を加速させつつある。

アメリカは、北朝鮮を小馬鹿にする映画をめぐって「言論の自由」を振りかざした。
例え「悪の帝国」であっても、北朝鮮は国連に加盟する独立国家である。
その国家元首を暗殺すると言う映画を、他国が作って商業目的で見せようと言うのである。
悪趣味と、独善、ここに極まれり、である。
自分たちは正義の味方だから、何をしても許されるという思い上がりがこのような愚行につながった。
映画は典型的なB級であり、取るに足らないものだったが、これによって北朝鮮の恨みを買ったのは間違いない。
この映画が日系の映画会社によってつくられたことも、イスラム国は知っていたに違いない。

はるかに危険な「愚行」を進行中なのがフランスだ。
イスラム教を挑発する風刺画を描いてきた週刊誌「シャルリー・エブド」の編集部がイスラム過激派に襲撃され、十数人が殺害された。
この残虐行為には、一片の擁護の余地もない。いかなることがあっても許されない行為ではある。
フランス中、そして西側諸国はこの暴挙に怒り「言論の自由に対する挑戦だ」として、「私はシャルリー」というスローガンを掲げて団結した。

そして、出版社の生き残りは翌週には再度イスラム教を風刺する表紙の号を出版したのだ。

イスラム国などイスラム過激派は、大部分のイスラム教徒とは無関係だ。
彼らは、アフリカ大陸や西アジアで残虐行為を繰り返しているが、略奪しているのは専ら同じイスラム教徒だ。
多くのイスラム教徒にとっても、過激派は排除すべき敵だ。西側諸国と普通のイスラム教徒は過激派を「共通の敵」とみなしていたはずだ。
しかし「シャルリー・エブド」はイスラム教徒すべてを敵に回すような挑発行為を行ったのだ。

イスラムは預言者ムハンマドを描くこと自体をタブーとしている。その風刺画の内容の是非ではなく、描いたこと自体がイスラム教への挑戦になる。
フランスの「表現の自由」は「いかなる宗教のタブーも認めない」ものだそうだが、その一方的な考え方、独善によって、火に油を注ぐような結果になった。

政治とは国民に「安全、平和」を保証するために存在する。そのためのすべてのリアルな努力が「政治」のはずだ。
「誇り」だの「正義」だの、発火性の高い薄っぺらな言葉を振りかざして、対立をあおるのはまともな政治家のすることではない。

安倍政権は「バスに乗り遅れまい」とばかりにアメリカやフランスに追従した。1/18、岸田文雄外相は、「シャルリー・エブド」に献花をした。襲撃後の冊子が出る前ならともかく、挑発的な表紙の最新号がでたあとで、頼まれもしないのにわざわざ賛意を示しに行ったのだ。
そうすることが西側諸国の一員として「まともなこと」だと思ったのだろう。
こういう形で、安倍政権は世界に高まる「リスク」に、我々の国を巻き込もうとしている。

3日後、二人の日本人は斬首されることだろう。私たちはその映像を目の当たりにすることになる。
これまでの日本がやってきたように、金で解決することは「西側の一員」としてできない。裏取引をしようとしても、イスラム国は受け付けないだろう。
仮に秘密裡に金を受け取ったとすれば、イスラム国はこれ見よがしに世界に喧伝することだろう。「日本がおじけずいて脅迫に屈した」と吹聴するだろう。
どうころがっても、二人は見殺しになると思われる。

私たちは、これからは、西欧諸国に起こり得ることは、日本でも起こると考えるべきだろう。
自爆テロがたちまち起こるとは思えないが、その危険性は高まるはずだ。
そして、イスラム圏は日本を「裏切り者」と見なすだろう。

アベノミクス効果による「株高」と引き換えに、あぶく銭と引き換えに、私たちは奇跡のように守られてきた「平和」「安全」を失おうとしている。


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広尾晃、3冊目の本が出ました。