日本人は今、重苦しい緊張の中にいる。もちろんイスラム国に囚われた邦人を思ってのことだ。不幸でしか人心がまとまらないこと自体、不幸なことかもしれないが、助かってくれないと堪らないという思いは右、左をも横断して一つの連帯感を作っている。
しかしながら、こういうときには人や企業の地金が出る。胸糞の悪い話が聞こえてくる。ここに書きとどめておきたい。

一つはフジテレビだ。
1月20日の午後3時に発覚したイスラム国が72時間以内に身代金を払わなければ2法人を殺害すると脅迫した事件の発生を受けて、翌1月21日「めざましテレビ」は、画面の左上に「対策室設置から約14時間30分」、「約14時間」と時間経過を表示すテロップを掲げた。カウントダウンをする感覚で、表示し続けた。
臨場感を高めることで、人々の注目を集めたいと思ったのだろうが、カウントダウンを目にした家族がどう思うかは、まともな人間ならすぐに気が付くはずだ。
今回の事件は、その残虐さと卑劣さで、日本人に例を見ないインパクトを与えている。後藤氏や湯川氏と縁もゆかりもない多くの人々が、彼らの家族と同じような切迫感で事態を見守っている。
「めざましテレビ」を見た何十万、何百万と言う人が、神経を逆なでされるような不快感を覚えたはずだ。
フジテレビはなぜそのことに気が付かないのか。いつからこの会社はこんなに馬鹿になってしまったのか。

民放キー局は、近年、自分たちが日本国中からちやほやされていることが、嬉しくてたまらないようにふるまってきた。トレンドを作っている、大きな影響力を与えていることを過剰に意識し、ついには「何をしても許される」と思うに至った。そして「世の中はバラエティ番組のようなものだ」という異常な世界観を持つにいたった。
フジテレビは一時期最も成功したテレビ局となった。それだけに時代の遷移に気が付くのが最も遅れた。
この局は、仏週刊紙「シャルリー・エブド」がイスラム教の預言者ムハンマドを描いた表紙を公開した事件の際も、イスラム教徒にその表紙の感想を聞く愚挙を行った。
現実とテレビがねつ造した「作り事」の区別がつかないほど、感覚がマヒしているのだ。

フジテレビは、世間の非難を受けてすぐに表示を取り下げた。しかしその行為は指弾を受けてしかるべきだ。

もう一つは、昨日の田母神俊雄氏のtweetだ。

「イスラム国に拉致されている後藤健二さんと、その母親の石堂順子さんは姓が違いますが、どうなっているのでしょうか。ネットでは在日の方で通名を使っているからだという情報が流れていますが、真偽のほどは分かりません。マスコミにも後藤健二さんの経歴なども調べて流して欲しいと思います」

この文章で見る限り、田母神俊雄氏は明らかなレイシストだ。

今の日本には「この人物は実は在日だ」という情報をSNSやyoutubeなどで拡散する輩がたくさんいる。唾棄すべき卑劣さだが、多くは無名の一般人であり、いつの世にも一定数いる愚かな人々と見なすこともできる。しかし、田母神氏は公党に所属する著名人であり、自衛隊のトップにもいた人物だ。

田母神氏はさらに

「イスラム国支配地域には現地の人たちも危険という理由で入らないのです。その危険を承知で後藤さんは入ったのです。母親である石堂順子さんは、皆様に迷惑をかけて申し訳ないというのが普通であると思うのですが、健二はいい子だから無事帰ってきて欲しいと言っています。少し違和感を感じます」

石堂順子さんが記者会見の冒頭で「ご迷惑をおかけしています」と深々と頭を下げたのは、みんなが見ていたはずだ。
田母神氏はたまたま見ていなかったのかもしれないが、事実はどうであれ自分の気に入らない人間を貶めようという、見下げ果てた性根が見て取れる。
田母神氏は、在日米軍兵士による女子高生の集団強姦事件についても「朝の4時ごろに街中をうろうろしている女性や女子高生は何をやっていたのでしょうか」と事実とは異なるツイートをした。

これらの事件で非難を浴びても、田母神氏は一切訂正せず、謝罪もせず、無視を決め込んだ。まともな言論人ではない。

一部に熱狂的な支持者がいる。石原慎太郎氏と同様、「田母神氏なら許される」という空気ができ始めているのは看過できない。ファシストは世間の不満を背景にのし上がるものだ。この人物は民主主義の敵であり、政治の世界に参画させてはいけない人物だと思う。

人の絶望感、苦しみを共有することができず、そのことを利用しようと考える企業がある。それにかこつけて卑劣な自説をひけらかそうとする人物がいる。
彼らは、世間の厳しい指弾を受けることなく存在し続ける。それが「2015年の日本」の姿だ。



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