関西人と東京人の好みの違いはいろいろあるが、「トーストの厚さ」というのはけっこう深いのではないかと思う。

関西では一斤のトーストを5枚に切る5枚切りが一番売れる。4枚切りもある。東京では6枚切りが一番人気だ。
恐らく厚みで言えば数ミリの差だろうが、この差は大きいのだ。

東京でモーニングを頼むと6枚切りのトーストが付いてくる。カリカリに焼いている。中まで火がしっかり通って、食べるとザクッという音がする。
バターやマーガリンは添えられていることが多い。
お好きにどうぞ、というところか。しかし運ばれてくるまでにパンはかなり冷めているから、バターやマーガリンをなすくっても、そんなに溶けない。いつまでも白いままだ。
パンはパン、バターはバターのままで、口に運ぶことになる。関西人の私にとってはなんともわびしい。

5枚切りのトーストは、しっかり焼いても、中まで火は十分には到達しない。芯の部分は柔らかいまま熱によって蒸されたような状態に成っている。食べると表面をかじるザッという音だけで、中身は音がせず、柔らかく歯を受け止める。
熱された空気は分厚いトーストの生地の中にとどまっている。これが口の中にふわっと入ってくるのだ。ほのかなパンの発酵臭が、鼻に抜ける。何たる幸せ!

関西では、焼きたてのトーストにたっぷりとバター、マーガリンを塗って出してくれるところが多い。トーストの表面は、溶けて中に沁みこもうとするバター、マーガリンでてらてらと光っている。
まさにトーストのステーキ。これはご馳走だと思う。

東京のトーストには、クリスピーな美味しさがあるとは思うが、これだけでは主役にはならない。サラダとか卵とか、おかずがついて初めて格好がつく。
関西のトーストは、それだけでご馳走である。サラダや卵があればあったで良いが、濃いコーヒーだけでも十分な気がする。

うちの母などは、トーストの耳を切って焼いたりする。それがお上品だと思っているのかもしれないが、わざわざパンをまずくする仕儀だと思う。
トーストは、耳に面したふちの部分が一番おいしいのだ。溶けたバターやマーガリンは、トーストの生地の中をどこまでも沁みとおっていくが、密度のある耳の生地に当たって止まり
そこにたまっていくのだ。
トーストの生地と耳の生地、粗密の違う歯ごたえの変化も楽しい。
耳を切ってしまうと、パンの中の空気も抜けてしまうし、歯ごたえの変化もなくなってしまう。

私は、トーストだけは関西風がいいと思う。朝からそんなに重たいものは食べたくないという人も多いだろうが、トーストの本当の美味しさを知らずに死んでいくのは悲劇である。いっぺんやってみ、と言いたい。

ただ、美味しいからと言って、食べ過ぎるのは禁物だ。
私は若い頃、人の家に泊めてもらった翌朝、出されたトーストがあまりにも美味しかったので
厚かましくも、一斤まるまる、つまり5枚一気に食べたことがある。

食べて1時間ほどすると、お腹が膨れて苦しくてたまらなくなった。
トーストというのはスポンジのようなものである。胃の中で胃壁の水分を吸って膨張したのだ。胃の形がはっきり意識できた。
しばらく何も手につかなかった。

いくらおいしいからと言って、トーストを一斤も食べるのはあほである。

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