衆議院憲法審査会に参考人として出席した憲法学者三人全員が安全保障関連法案を「違憲」と言明してから1か月。事態は目くるめく進展した。歴史の歯車が動いているという実感がある。時間を追って整理していきたい。
6/4 憲法学者三人全員が安全保障関連法案を「違憲」と言明

6/4 菅義偉官房長官は会見で、3人の参考人全員が「憲法違反」としたことに関し、「法的安定性や論理的整合性は確保されている。全く違憲との指摘はあたらない」。「全く違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と話す。

6/5 讀賣新聞社説「看過できないのは、政府提出法案の内容を否定するような参考人を自民党が推薦し、混乱を招いたことだ。参考人の見識や持論を事前に点検しておくのは当然で、明らかな人選ミスである。法案審議は重要な局面を迎えている。政府・与党は、もっと緊張感を持って国会に臨むべきだ」
この新聞は、最初から「安保法制」を通過させる前提でモノを言っている。そして安倍政権の機関誌のような口ぶりで不手際を叱責している。これは「報道」なのだろうか。

6/5 中谷元防衛大臣兼安全保障法制担当大臣は、5日の 衆院特別委員会で「現在の憲法をいかに法案に適用させていけばいいのか、という議論 を踏まえて閣議決定を行った」と説明。要するに最初に法案ありきで、憲法をそれにこじつけようとしたということ。
中谷元は防衛大学校出の元自衛官だが、昨年7月には「時代の背景とともに、憲法で許される必要最小限度の範囲で(集団的自衛権を行使できると)政府として考えている。これからも考えていく」と答弁した。1年で考えが180度変わったということか。

6/9 安部首相はドイツ・ミュンヘンで「今やどの国も、一国のみで自国の安全を守ることができない」とし、「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増したこともあり、他国を守らなければ日本の存立が脅かされるような状況に限り、他国を守ることが必要な自衛のための措置にあたる」と話す。
その根拠として1959年の砂川事件に関する最高裁判例を持ち出し、「自国の平和と安全とを維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置を執り得ることは、国家固有の権能の行使であって、憲法は何らこれを禁止するものではない」と述べた。

6/12 テレビ朝日が憲法判例百選の執筆者198人にアンケート調査を行う。151人が返信。

Q1.一般に集団的自衛権の行使は日本国憲法に違反すると考えるか
 憲法に違反する 132人
 憲法違反の疑いがある 12人
 憲法違反の疑いはない 4人
Q2.今回の安保法制は、憲法違反に当たると考えるか? 
 憲法違反に当たる 127人
 憲法違反の疑いがある 19人
 憲法違反の疑いはない 3人


この頃から、憲法解釈についてマスメディアが詳しく伝えるようになる。安倍政権に対する「配慮」「遠慮」がやや感じられなくなる。

6/10 自民党、村上誠一郎代議士が衆議院議員会館で開かれた安保関連法案に関する勉強会で「学者が揃って違憲といっているのに、それを無視するのは傲慢だ」と自民党執行部を公然と批判。しかし同調者は現れず。

6/14 維新最高顧問の橋下徹大阪市長と安倍晋三首相が東京都内で3時間にわたって会食。安倍首相は、もとから親密だった橋下市長を通じて「安保法制」に関して、維新を懐柔しようとした模様。

6/19 西修・駒沢大名誉教授が日本記者クラブで「憲法と安保法制」をテーマに講演。「9条で自衛権の行使は認められている。集団的自衛権は個別的自衛権とともに主権国家の持つ固有の権利だ。安保関連法案は限定的な集団的自衛権の行使容認であり、明白に憲法の許容範囲だ」
テレビ朝日は「西先生は4人のうちの1人ですね」と紹介

安倍政権は、4月の日米首脳会談で「日米同盟の強化」の共同声明した際に、「安保法制に必要な関連法案を夏までに成立させる」と宣言。これは実質的にアメリカに対する約束だ。ここへきての異論続出に苛立った安倍政権は、党内に言論統制を敷く。

6/23 6/25に「宏池会」(岸田派)の武井俊輔、無派閥の石崎徹両代議士らによる「過去を学び『分厚い保守政治』を目指す若手議員の会」が、漫画家の小林よしのりを招いて5回目の会合を開く予定だったが、急きょ中止が発表される。
小林よしのりは自身のブログで「多様な意見は許されない」「全体主義の空気が蔓延している」と自民党を激しく批判。

6/25 こうした状況下、百田尚樹や議員たちの暴言が出た「文化芸術懇話会」が開かれた。
同じ党内の一方の勉強会を中止させて、一方の開催を承認したのだから、実質的に「文化芸術懇話会」は、安倍政権公認、と見てよいのではないか。

以下続く。


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広尾晃、3冊目の本が出ました。