私は生駒山地を西に臨む矢田丘陵の北部の裾に住んでいる。この丘陵が南に果てるところには法隆寺がある。日曜の午後、自転車で行ってきた。

法隆寺に自転車で行けるなんて羨ましいと思われるかもしれないが、奈良で育った子供は、小さいころに法隆寺や東大寺に嫌になるほど連れていかれる。だから大人になるまで、お寺なんて大嫌いになるものなのだ。

私もそんな一人だった。おじさんになるころからお寺の魅力を再発見したのだ。
昼過ぎに出たから、お寺に着くころには日はかなり西に傾いていた。
おまけに、空一面に鰯雲が出ている。いい日和とは思えないが、南大門をくぐり、伽藍に足を踏み入れる。
驚いた。拝観料なんと1500円。映画1本分だ。少し前まで数百円だったはずだが。文化財保護にコストがかかるようになったのか、それとも国や自治体の補助金が減ったのか。

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法隆寺と言えば、なんといっても世界最古の木造建築物である、金堂、五重塔ではあるが、今回は、紹介しない。いつもため息をつきながら眺めているが、法隆寺の魅力はそれだけではないのだ。

このお寺は、三笠山の麓に腰を掛けているような東大寺とは異なり、平地にある。伽藍は平らな土地に東西にゆったりと広がっている。
境内の中央には広い道が貫かれ、その左右に様々な建物が並んでいる。
ここを歩くと、飛鳥時代の町を歩いているような気持になる。この雰囲気が何とも言えない。
天空を雲が覆っていても、あたりは薄暗くとも、うっとりするような空気が流れている。人々とともにゆらゆらとこの道を歩く楽しさはほかにない。

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飛鳥時代、つまり東アジアの6~7世紀の空気をとどめているエリアは、世界中に法隆寺しかない。奈良時代、8世紀の空気をとどめている東大寺ともに、ほんとうにかけがえがない遺産だと思う。

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東には夢殿、中宮寺がある。これももちろん見ものではあるが、今回は全く別の魅力をご紹介する。
それは「塀」だ。
法隆寺は境内全てが文化財だ。東院伽藍は創建時のものではないとされるが、それでも1300年もの時代が堆積している。
建物だけでなく、それを仕切る「塀」や壁も、みんな時代がついている。遠大な時代を帯びたものだけがもつ訴えかける力がある。

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土塀は時間の経過とともに剥落し、崩れ、土に戻ろうとする。人々は千数百年にわたってそれを食い止めるために土を入れ、漆喰を上塗りし、砂利をはめ込んできた。
全てをやりかえることはできないから、つぎはぎになる。そのつぎはぎが、何とも言えない深い味になっている。

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一つ一つの壁の表情に物語を感じることができる。見飽きない。

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中宮寺は門跡寺院だから、塀には例の5本線が入っているが、これも京都や滋賀の寺とは趣が異なる。

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飽かず眺めているうちに、夕暮れが迫ってきた。人もまばらになる。

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必ずと言ってよいほど子供が遊んでいる西門を出て、自転車置き場に回って自転車に乗り、家に帰ってきた。

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ぜいたくな時間だった。


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