SMAPについて注目したのは1996年、「SMAP×SMAP」という番組が誕生した時だ。
今も変わらないが、この番組の基調は「笑い」だ。
いわゆる「スタッフ笑い」が、スタジオに満ち溢れている。SMAPのメンバーやゲストは、スタッフがポイントを外すことなく「笑ってくれる」理想的な環境で、おしゃべりをし、おふざけをし、料理をしたりする。そして申し訳程度に歌を歌ったりする。
平たく言えば、この番組は「お笑い番組」なのである。

しかし「SMAP×SMAP」には、ゲスト以外にお笑い芸人のレギュラーはいない。アイドルであるはずのSMAPが、スタッフ、そしてテレビ画面越しに全国のファンを笑かしているのだ。
もちろん、テレビに見入るのはSMAPのファンであり、笑いのハードルは下がっている。であっても、お笑いの専門家がいなくても、「お笑い番組」が成立する時代が来たというのは、かなりの衝撃だった。
漫才師、噺家などの「お笑いの専門家」は、これから大変だ、と思った。

しかしそれからちょうど20年、テレビのお笑いをめぐる様相は一変した。
「お笑いの専門家」は、舞台を本拠とした「芸人」であることをやめて、次々とテレビを主戦場とする「タレント」に変身した。それとともにステイタスが上がって、タレントとの区別はあいまいになっている。
今や、タレントには、「顔やスタイルがいい」タイプと、「しゃべくりが面白い」タイプがいる、と言ってもよい状況だ。

そういう変化がある中で、SMAPは、トップランナーとして走り続けてきた。後続のアイドルグループも、歌や踊りやドラマ出演ではなく、バラエティと称する「お笑い番組」をメインのステージとして、人々の心に取り入ってきた。
そしてテレビでの圧倒的な知名度、人気を背景として、会員組織を結成。この安定顧客に対して、コンサートを行い、莫大な収益を上げてきた。
このビジネスモデルが完成したことで、ファンとの間に介在していたCDなどのメディアは、存在意義を失って衰退しつつある。

彼らが出る番組は、ほぼ確実に視聴率がとれる。地上波テレビにとって、こうしたアイドルタレントは視聴率を上げるうえで、絶対的な要素となった。
それとともに彼らを支配するジャニーズ事務所は、テレビメディアにおいて圧倒的な権力を持つにいたった。
テレビメディアはNHKも含めジャニーズ事務所を一切批判しなくなった。

地上波テレビ局の多くは新聞社などを母体として設立された。しかし映画会社や一般企業など出資企業は多く、本来は独立した企業だった。
1957年に郵政大臣になった田中角栄は、大臣の座を降りても実質的な放送免許の元締めとなり、許認可権を盾に、新聞社と放送局の系列化を推し進めた。
私は子供の時に、関西の朝日放送がなぜ毎日新聞ニュースをやっているのかと思ったことがあるが、角栄はこうしたねじれを解消して、シンプルなテレビと新聞の系列化を完成させた。

 読売新聞=日本テレビ
 毎日新聞=TBS
 産経新聞=フジテレビ
 朝日新聞=テレビ朝日(NET)
 日本経済新聞=テレビ東京(東京12チャンネル)

さらに、地方局もほとんどがこの系列に組み入れられた。
またスポーツ新聞も全国紙の系列で設立された。

メディアが互いに強い資本関係をもつことを「クロスオーナーシップ」という。
クロスオーナーシップは、新聞がテレビを批判するなど自由な言論が難しくなる危険性がある上に、権力や資本のメディアへの介入が容易になるため、アメリカなど先進国では排除されている。
先進国でこうしたクロスオーナーシップが行われているのは日本だけである。
この状況は中華人民共和国と大して変わらない。

自民党はこれによって、テレビ局に圧力をかけるだけで、新聞を黙らせることができるようになった。
巨人が江川卓を詐欺的な手法で強奪しようとしたときに、他のメディアが総攻撃したのに対し、讀賣新聞とともに日本テレビ、報知新聞(最初は批判記事を載せた)も口をそろえて巨人を擁護する論陣を張ったのは、クロスオーナーシップがあったからだ。
このとき自由な言論が圧殺されたことにショックを受けた人は少なくない。

クロスオーナーシップが完了してから、メディアは「肝心なことは言わない」で、「読者が喜びそうなこと」を口をそろえて言うようになった。
権力、大衆、スポンサー、そして圧倒的に強いコンテンツホルダーに対し、絶対に逆らわなくなった。

大正初年うまれの私の祖母などは、新聞記者は堅気の商売ではないといった。人のアラを嗅ぎまわる「巾着切り」のようなものだと言った。
しかし今の新聞記者は誰かを持ち上げて「ご祝儀」にあずかろうとする「野幇間」のようなものだ。どちらにしても、尊敬すべき仕事ではない。

21世紀に入り、新聞メディアが衰退する中で、系列内でのテレビの影響力は大きくなっていった。テレビと新聞はますます一体化した。

今回のSMAPの話は、興味のない私にはどうでもよい。
解散しようが、国外逃亡しようが、性転換しようが、別に構わないが、今回の和解に対し、民放からNHK、讀賣、サンケイから朝日、毎日までが、すべて同じ内容の報道をしたのには、戦慄を覚える。

ジャニーズ事務所のタレント支配は強圧的で、ほとんど恐怖政治のようだと言われる。
このこと自体は日本の中小企業ではごまんと見られることであり、珍しくもなんともないが、この中小企業の性格の悪そうな80代の女性に、所属タレントだけでなく、日本を代表するすべてのメディアがひれ伏したのである。

テレビ局をちょっと脅しつければ背後の新聞社も震え上がる。そして、お利口さんぞろいのメディアは他局が圧力をかけられているのを見ると、頼まれもしないのに自粛する。

要するに、安倍政権はジャニーさんだかメリーさんだか知らない中小企業経営者と同じことをしているのだ。近い将来、「憲法改正」を、全メディアが「SMAP解散回避」と同じ口調で国民に伝えることだろう。


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