朝、那覇市中心部の官庁街に警報が鳴り、「ミサイルが発射されました」というアナウンスが響き渡った。日曜日のビル街は静寂そのものだったが、まるで第三次世界大戦がはじまったような不気味さがあった。
しかし、中国人と思しき巨大なゴロゴロを引っ張る連中は、言葉も通じないこともあるだろうが、極東アジアの情勢には全く無関心。大声で何やかやと話していた。
沖縄唯一の鉄道である「ゆいレール」に乗っても、首里城に行っても、国際通りを歩いても、中国人の観光客だらけだ。野球のキャンプ地だけは、彼らに野球のたしなみがないから姿を見かけない。正直ほっとする。

土産物屋や飲食店はおろか、イオンのスーパーでも、コンビニでも「熱烈歓迎」である。
首里城では沖縄舞踊が上演されたが、見ていた人の大半は中国の人々だった。
彼らが「沖縄舞踊を見た」と思うのか「日本舞踊を見た」と思うのかは、よくわからないが。

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これは沖縄だけでなく、全国各地でみられる。

大阪の心斎橋を歩けば、中国人の観光客は7割を超えるのではないか。東京の浅草も似たような状況だ。

まだ「爆買い」という言葉がなかった3年前、私は中国人の団体の大阪見物のガイドをしたことがある。
桜の季節だったので大阪城に連れて行って、「中国に攻め入った豊臣秀吉が建てた」と言って反応を見たが、彼らはこうした文化財には一切興味がなかった。

ひたすら日本橋の電器屋街に連れて行けという。
行くと、金網のディスプレーに並んでいるデジタルウォッチを、あるだけ全部くれと言った。デジタルカメラをまとめて数個買う人もいた。
大阪へ来るまでにすでにかなりの買い物をしていて、着物や日本刀まで買っていた。
「予算は1000万円」という人もいた。
この時の一行は、中国内陸部のある省の幹部、特権階級で、中の一人は「パスポートを持っていなかったが、空港で私の名前を言えば通してくれた」と自慢した。真偽はわからないが。

当時は共産党や政府の関係者だけだったこうした「爆買い団」が、今では少し成功した中流家庭にまで広がり、日本経済を潤すような存在になったのだ。

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彼らを見ていると「買い物をすること自体が楽しくて仕方がない」と思っているように見える。
だから細かなスペックに拘泥することなく、威勢よく物を買う。
もともと中国人は体面や見栄を非常に気にする。20年ほど前までは、買ったものを値札をつけたまま身に着けるのが流行って、値札付きのサングラスをかけて街を闊歩する女性の姿が報じられたりした。
さすがに今は、そういう風潮はなくなったが、それでも車を選ぶときは、性能や安全性ではなく、大きさや内装の豪華さ、エンブレムの派手さなどがポイントになるのだという。

要するに中国の人々は「物が買うこと」で豊かさ、幸せを実感しているのだ。必需品を買っているわけでも、好きなものを買っているわけでもなく、「買うこと」自体が目的なのだ。

日本にもそういう時期があった。悪名高き「JALパックツアー」がパリやニューヨークで宝石を買いあさったのは数十年も前のことだ。
私は30年ほど前、中国によく言ったが、日本との経済格差が非常に大きかったから、中国ではなんでも驚くほど安かった。
私はおしゃれには全く興味がないし、インテリアなど大きなものは持って帰れないし、仕方なくバイオリンだの一絃琴だの、弾きもしない楽器を買った。どれも日本円で1000円くらいだった。そのときに、確かに幸せのようなものを感じた。
空港ではおよそ音楽に無縁そうに見える親父が太鼓や琵琶を持っていた。私と同じ心境だったのだろう。

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しかし、そうした幸福感は長続きしない。
景気の浮き沈みで経済格差は消えてしまう。経済格差がなくなれば、買い物を楽しむことはできなくなる。日本では長引く景気低迷が、日本人の消費マインドを冷やしてしまった。

そういうこととは別に、生活水準が高くなって一定の時間を経ると人々は「物を買うこと」に喜びを見出さなくなる。
今、我々はショッピングモールや百貨店などに行っても、めったに物を買わなくなった。必要なものを吟味して買うだけだ。
懐具合が気になることもあるが、たいていのものはすでに家にある。今更新しいものを買っても仕方がない、と思ってしまうのだ。「物を買う」ことそのものが楽しくなくなったのだ。
社会の成熟とは、こういうことだろう。

中国の人々も、いずれそういう時期が来る。
中国の経済成長は、「東洋の奇跡」と言われた日本よりもさらに何倍も速いスピードで進行している。中国が経済大国になったのはたかだが20年ほどのことだが、すでに経済成長に伴うさまざまな矛盾が噴出している。
共産主義と資本主義の両立という土台不可能なことを強行してきたからではあるが、日本や他の先進国のやり方をトレースした分、進み具合が早いということもあろう。
あと数年くらいで、中国の経済は本格的な後退期に入るのではないか。
たとえ体制が維持できたとしても、中国人たちの消費マインドは急速に冷え込むだろう。

安倍政権や経済界は今になって「インバウンド」と言い出した。街には、「爆買い」を誘引するような様々な店舗や商業施設ができはじめた。
宿泊施設が足りないと「民泊」を大幅に認める動きも出だした。

しかしながら、そうした設備投資や制度改革はできるだけ限定的なほうが良いと思う。施設は他の目的に転用可能なものが良いと思う。

「爆買い」は、未来永劫に続くことはありえない。中国の人々はほどなく「幸せ」の違った意味合いに気が付くはずだ。そして日本人同様、財布のひもが固くなっていくだろう。今年あたりがピークではないか。

バブル景気に目のくらんだ人々の財布を当てにして、商売の間口を広げるのは、行儀のよいことではない。商売の本道からもはずれている。
「爆買い」を当てにした商法は、ほどほどにすべきだろう。



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