我が家は小さいころから犬を飼っていた。結婚して15年ほどは集合住宅に住んでいたから飼えなかったが、親が建てた戸建てに帰ってきた年に犬を飼った。ちょうど野球のブログを始めたころだ。
ブログのアイコンに使っている、南海ホークスの帽子をかぶった男だ。
雑種、今どきはやりのミックスてなええもんではない。柴のような日本犬と洋犬の血も混ざっているようだ。
小さいころから利かん気が激しく、気に入らないと「イヨウ、イヨウ」と粘るような声を出して人を呼んだ。
長じて体重15kgと、中型犬としてはボリューム感のある体格になると、確信犯的な悪さをするようになる。
奥さんの干した洗濯物を、背をちょっと伸ばしてくわえて、わざわざ「これこれ」と見せに来る。
「返せ」と言っても返さない。
Tシャツやタオルなどをいくつも穴をあけた。
また飼い主にもたびたび噛みついた。

P5047182


あまりのことに、去勢をすることにした。
近所の動物病院で手術をした。執刀したのは女医さんで、私の幼馴染。小学校1年の時に私の隣の席に座った女の子だった。
摘出した犬の灰色の睾丸一対を前にして、幼馴染と話をするのは、まことに不思議な心持だった。

それから多少は大人しくなったが、それでもやんちゃだった。
運動神経が無駄に良くて、ゆっくり二本足で立って、そのまま方向転換することができた。飛んでいるセミをキャッチしたこともある。セミ取りはお気に入りの趣味で、口の中でしばらく鳴かせてからぐっと噛んでとどめを刺すのだった。
他の犬とけんかをしても負けなかった。
トカゲやカナヘビを取るのも得意だった。素早く動くのを、鼻面をどこまでも追尾させて仕留める。
多い年はシーズン20匹は仕留めた。これで食っていけるのではないかと思った。
しかし、7歳を過ぎた最近はめったにトカゲを取らなくなった。そのかわり、壁にへばりついているヤモリを取るようになった。こいつは、トカゲよりもかなり遅い。
草野球で鳴らしたおっさんが、歳を取ってソフトボールに転向するようなものかと推察する。

DSCF1285


たくさん犬を飼ってきたが、この犬との交情が一番深い。
以前は、私が学校や会社に行っていたため、犬とは朝、晩、休日しか接する機会がなかった。今は家にいることが多いので、いやでも犬と付き合う時間が増えたのだ。

原稿を書いていて、少し詰まった感じになって庭に出ると、犬が寄ってくる。庭で放し飼いしているのだ。
犬は、私の少し前を歩いて、ときどきちらっと私の方を見て、何か言いたげな顔をする。
このあたり、観光地などへ行った皇族の方などを先導する、ご説明係の人のようだ。
ただうちの犬は、私がちょっと気を許すと足にしがみついて、股間を押し付けてくる。夏など、生足にそれをやられると何とも心持が悪い。

ご説明係の人は、皇族の方々に突然股間を押し付けたりしないように思うので、そのあたりは少し違うのではないかと思う。

朝のうちはそういう調子で歓待してくれるが、一日に何度も庭に出て、頭をさわっているうちに、犬の方が倦んでしまって、夕方ころになると、呼んでも寄り付かなくなる。このあたりも人間臭くなってきた。

この犬は、私が指をさすと、指さす先を見るようになった。これ、犬としては珍しいのではないか。

昨年の夏、私の母親が突然、家のリフォームをすると言い出した。私は馬場正平の本を書いていた最中なので、迷惑に思った。
毎日、大工の棟梁がやってきて、いろいろなところに入り込む。
その都度、犬は激しく吠えた。
近所迷惑ではあろうが、我が犬は、番犬の役割を果たしていると思ったのだが、
あるとき、大工の棟梁が、うちの奥さんにこういった。
「この犬は、ご主人がいてはるときだけ吠えますなあ」
犬は、私がいないときには、大工の棟梁に「お手、お座り」までするのだという。

犬の目を見て「どこでそんな姑息な世渡りを覚えたのや!」と詰問しても、犬は「あんただけでっせ」と尻尾を振るばかりである。

DSCF2543


本屋さんに並んでいます。ぜひお求めを。