一生の間には、歴史の転換点に立ち会うことが何度かあると思うが、さしずめ一昨日もそのうちの一日だろう。イギリスのEU離脱は、それほどの衝撃だと思う。


早くも日本は大波に揺れている。
為替レートは、99.00円、株価は14900円台まで下落した。

安倍政権は、「株価連動政権」と言われる。アベノミクスと言うのは、政治家と官僚が口先で現出させたちんけな錬金術だった。日銀と二人三脚で金融緩和を推進し強引に円安を誘導し、これによって輸出産業はV字回復した。
2012年12月の第二次安倍晋三内閣の発足時、1ドル83.5円だったドル/¥為替レートは、2015年6月には123.8円にまで円安が進み、日経平均株価も10400円から、2015年7月には20585円まで上昇した。
最近は、アメリカや中国が日本の円安誘導を警戒し、牽制しだしたため身動きが取れなくなっていたが、それでもこの5月のドル/¥為替レートは、109.6円、株価は17234円だった。
これがたった1日で2013年上半期の水準まで押し戻されたのだ。
おそらく日本経済は、4年間のアベノミクスの利益を、短期間に吐き出すのではないか。

円は世界経済がショックを受けると、急激に買われる。「比較的安全な通貨」だからだが、これってどういう意味なのだろう、とずっと考えていた。
日本が世界一の債権国で、最大のキャッシュフローを持っているからだと説明されるが、素人考えで言うと、基軸通貨の一つである「円」を持ちながら、日本経済圏がスタンドアローンで、他の経済圏に大きな影響を与えないからではないかと思う。
要するに、日本が円高で経済的に苦しんでも、周囲があまり困らないからではないか。

イギリスの決定を受けて世界の株式市場は暴落したが、日本の下げ幅が一番大きかったのは、そういうこともあったのだろう。

アベノミクスは破たんしたというより、雲散霧消したということだろう。

参議院選挙の真っただ中だ。自民党、安倍政権もイギリスは最後の最後で離脱を思いとどまると思っていただろうから、衝撃は大きいはずだ。
しかし、安倍政権の敗北も考えられない。

野党に政権担当能力がないことが明らかだからだ。安倍政権は、戦後最悪の政権だと思うが、この政権を作ったのは、無能の極みだった民主党政権だ。「あんな能無しに任せるくらいならなら、自民党の方がましだ」と国民が思ったことで、安倍政権ができ、以後も対抗できる政治家、政党が出てこないから、どんどん力を蓄えてきたのだ。
要するに、日本国民には、選択肢がないのだ。

円と同様「比較的安全な政党」としての自民党に信任票が投じられ、安倍政権は永らえるのだろう。
しかし、これからいばらの道だ。安倍内閣と日銀が口先でちょろっと介入して景気を動かしたような詐術はできない。経済の大きな落ち込みに国も国民も苦しむことだろう。

昨日今日のニュースを見ていると、今回のイギリスの国民投票は、EUを絡めた国際問題ではなく、国内問題だったのではないかと思う。
先進国で進んでいる貧富の格差、そしてヨーロッパで進む移民の増加に対して怒る「持たざる半分」が、「持てる半分」に、痛烈な意趣返しをしたということのようだ。EUは彼らにとっては単なる小道具に過ぎなかった。

国民投票を決めたキャメロンと言う政治家は、一国、そして世界の運命を、おもちゃのようにもてあそんだ愚かな政治家として、歴史に残るのだろう。

そして、それによって、世界がかつてない衝撃を受けたことに、イギリス国民は離脱派も残留派も、おののくことになるだろう。

スコットランドが分離独立してEUに入ろうとしている。新たな国家分裂が起こるかもしれない。この国民投票の前なら「最後は良識が働く」とみんなが思ったが、もはやそれは期待できない。

EU諸国は体制を維持するために、思い切った手を打つと思う。EU官僚の強引さと腐敗は、加盟諸国の怨嗟
の対象になっているようだが、これは改革されるかもしれない。

返す刀で、イギリスとEUの今後の交渉は苛烈なものになるだろう。
EU諸国にしてみれば「イギリスはEUから離脱して、こんなに困窮している」という「見せしめ」を作る必要があるから、関税やその他の手続についても、厳しいせめぎあいになるだろう。
もちろん、同じ自由主義陣営だから「経済制裁」をするわけにはいかないが、一時的にせよ「離脱による経済低迷」を現出させるように働きかけることは間違いないだろう。

そうなればEU離脱の流れはこれ以上加速しないだろうが、イギリスの離脱によって力を得たロシアが動くことで、先が読めなくもなる。

さらに言えば、EUの経済が後退することで、中国の景気も減速する可能性が高いのではないか。「爆買い」などは吹っ飛んでしまうのではないか。

それからあとどうなるかは、私には全然わからない。私は人生の後半を迎えたが、うちの子どもたちをはじめとする若い世代は、果たして畳の上で(古い表現だが)死ぬことができるだろうか。

ごく普通に享受している、日本の平凡な日常が、彼らにとって「人生のピークだった」と回顧するような状況がやってくるのではないか。

考えたくもない未来の扉が開いたようだ。

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