我が家の犬は2008年の12月にやってきた。そのとき1か月目くらいだから、そろそろ8歳になる。
ドッグイヤーと言って、犬は人間より7倍速く年を取るそうだから、この男は11月で56歳、つまり私と同世代である。
若いころは聞かん気で、誰彼なしに噛んだり、洗濯ものに穴をあけたり、いろいろ悪さをした。
家に帰ると、わざわざ穴をあけた新品のTシャツを「これこれ」と持ってきたりするのである。
私は、犬を鎖につないで買うのが嫌いで、庭に放し飼いしている。奥さんはそれに反対していたから、犬が悪さをするたびに「あんたが悪い」と私を詰問した。一時は、夫婦仲が険悪になったりもした。

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何とかならんかということで、去勢した話は以前に書いたが、そのあともあまりおとなしくはならなかった。
もう生殖機能はないはずだが、雌犬にはすり寄っていくし、雄犬には吠えかかっていくのだ。その上に、食い気が異常に増進して、なんでも口に入れるようになった。洗濯バサミやプラスチック片などもバリバリ噛んでしまうのだ。

毎日最低でも1時間、多いときは2時間は散歩するので、余りぜい肉はついていない。運動神経は抜群で、飛んでいるセミを取ったこともあるし、二本足で立ってゆっくり方向転換したこともあった。
芝居の犬のように両肩が盛り上がってなかなか精悍なのだが、性格はきつい。

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座敷犬などは頭から馬鹿にしている。
散歩をしているとわざわざ犬を近づけてくる人がいる。犬にも好き嫌いがあるようで、ある座敷犬はすごく嫌いだったらしく、まるで菓子パンでも食べるように顔に食いついたことがある。飼い主は驚いて犬を抱き上げて逃げていった。

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近所に、この男よりも2歳ほど若い秋田犬がいる。1歳くらいで買われたようで、その家に来た時から体は大きかった。しかし、精神的には子供で、あるとき家から飛び出して、ちょうど散歩中だった我が家の犬に「遊ぼうよー」とばかりにじゃれかかったことがある。
うちの男はそういう気は全くないから、正面からくる秋田犬に、さっと体をかわして後ろに回り、後足にかみついた。「きゃん!」と泣いて勝負は一瞬でつき、秋田犬は文字通り尻尾を巻いて戻っていったが、それ以来、両者は不倶戴天の敵同士になった。

散歩で鉢合わせすると、両方が猛烈な勢いで飛びかかろうとする。向こうは50㎏くらいあるから、リードを引っ張るのも一苦労だ。だから、遠くから互いを見つけると、鉢合わせしないように道を避けるのが習わしとなった。

この男には、そういう因縁の関係が何匹かいる。そういうのと顔を合わせると、まるでやくざのように突っかかっていく。運動神経があるだけに自信があるのだ。

しかし、意外に気のあかんところがある。
猫にも猛烈に反応するのだが、あるとき追い詰めて逃げ場を失った猫に猫パンチで逆襲され、全く反撃できなかった。まさか自分に刃向かうやつがいるとは、とあっけにとられているようだった。
そして、この男は電車が非常に怖い。我が家から数分のところに小さな駅があるが、はじめて駅のそばに連れて行って、電車が駅に入るのを見ると、全身の毛が逆立って、猛烈な勢いで逃げた。
それ以来、駅には絶対に近づかなくなった。我が家の近所には3つほど電車の駅があるが、どの駅の近くに連れて行っても、電車の音がすると恐ろしい勢いで逃げる。結局、この男の行動範囲は、3つの駅を線で結んだ三角形の範囲に限定されるようになった。

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毎日一緒に散歩をしているが、最近、老け込んだなと思うことがある。
これまで夏場のスポーツだった「セミ狩り」「トカゲ狩り」の成功率がめっきり悪くなった。この夏はほとんど収穫なしである。
これまで多少の溝なら、無造作にひょいひょい飛びわたっていたが、結構な頻度で足を踏み外すようになった。
そして例の秋田犬と鉢合わせした時も、本気でつっかからないようになった。一応ファイティングポーズをとって見せるが、本気でないのは「リードの引きの弱さ」でわかるのだ。
ごくたまに無尾のドーベルマンと顔を合わす。飼い主はスポーツタイプの自転車に乗って、ドーベルマンとともに駆け足でやってくるのだ。筋骨隆々、ウサイン・ボルトの前世ではないかという体躯だが、この犬にはつっかからない。
賢くなったともいえるが、恐らく弱気になったのだろう。

この間、ドッグフードの上にチャーシューの塊を載せてやったら、それだけをくわえて庭に行って穴を掘り始めた。そういや、以前も肉をやったら穴を掘って埋めたことがあったな、と見ていると、穴が掘り終わったとたんチャーシューを食べてしまった。
ボケがはじまったのか、と一瞬不安がよぎった。

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20年ほど前、日本の犬の平均寿命は8歳くらいだった。細菌感染などで死ぬことが多かったのだ。しかし最近は予防注射や投薬をするようになり、13歳まで伸びているという。
うちの男にもフィラリアの薬や狂犬病の予防注射はしている。

数日前、私はこの男の散歩をしていてけつまづいて転び、右半身をしたたかに打った。眼鏡は飛び、右目の上にこぶができた。
この男は、リードを引っ張ったりせず、倒れ込んだ私をじっと見降ろして
「こけたか・・・」と言うような顔をした。
何か、渋い中年の味のようなものを感じた。

こうして私も老いていくのだが、この男のほうが老いは早い。弱気になったり、ぼけたり、おとなしくなったり、そうした変化を見るのもなかなか味わい深い。じっくり付き合おうと思っている。

(今、私の右目はパンダのようになっております。「どうしたんですか」と言われて説明するのが邪魔臭いので、これを読んでください。なお聞かれれば「3日前にタイトルマッチがあって・・・」といいますのでよろしく)


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