「世界平和とか人権とか、国際化とか、どうでもいいから、わしらのためにもっと金をくれよ」先進国は、こういう声に席巻されつつある。


これまで、政治家や学者、メディアが歯牙にもかけなかったこうした声は、イデオロギーでも主義主張でも、意見でもなかった。
低学歴の怠け者が口にする、レベルの低い本音、とるに足らないたわごとと思われていたが、その声が異様な力をもって、先進諸国を変えつつある。

その背景に貧富の格差があるのは間違いないだろう。頭が良くて、ずる賢い連中が、ビジネスのルールを勝手に書き換えて巨万の富を得ている。
そして民主主義や資本主義の名のもとに、エスタブリッシュメントと下層階級の二層化を推進している。
わしらは勝ち馬に乗るどころか、ゲームに参加する権利さえ奪われた。

そういう怨嗟の声が民主主義国家に渦巻いているのである。

そういう人にもわかる、低レベルで感情に訴えることが巧みな政治家が、世界で台頭している。
ポピュリストと呼ばれる彼らは、「既存の政治家とは違う」と訴え、「今までの政治家にできなかったことをやる」と叫んでいるのだ。

世界はボーダレス化が進み、混とんとしている。一国だけの繁栄、一国だけの平和など、無理なはずなのに、ポピュリストたちは「俺はお前らの方だけを向いている」と言い続けているのだ。

愚かな老人たちは、自分の子や孫の世代がどうなるかを考えることをやめ「わしらのために金を」と言い続け、彼らが望むような政治家を手に入れたのだ。

アメリカにトランプが出現し、イギリスがEUを離脱し、おそらくはフランス、ドイツにも極右と言われる政権が誕生するだろう。

日本では、小泉純一郎以来、旧来のことばで政治を語る人は、全く人気がない。安倍晋三も名門の家柄に生まれながら、口にするのは「お前らを金持ちにする」ということだけ。
今の日本では、どんな世論調査でも、有権者が一番重要だというのは「景気対策」。
株価連動内閣は、見せかけだけの景気浮揚策を連発して、「金をくれよう」と言い続ける有権者の気持ちを惹きつけているのだ。

安倍政権の後には、さらにわかりやすく、さらに有権者の直接的な要望に応える政権が生まれるだろう。

この世界的な傾向が続けば、民主主義、人権、世界平和、言論の自由など、これまでの人類が一番大事なものだと思っていた考え方が、ますます衰えていくだろう。
すでに日本では、そうした言葉は「左翼用語」であるかのように言われ、一部の人には古臭く、唾棄すべきものであるかのように見なされている。

それが失われると、どれだけひどい世の中になるかを知る高齢者や知識人は、それを憂う発言をしているが、そうした発言さえもが「アカ」、「反日」と呼ばれる始末である。

先進諸国で、民主主義を基本とする国際ルールが軽視され、それよりも自国の権益を重視するようになるということは、結局、ロシアや中国など、新興国との差がなくなるということだ。
トランプのアメリカは、プーチンのロシアに似てくるだろうし、安倍晋三の日本は、あれほど嫌っている習近平の中国に似てくるのだ。

強い力を持つ国が、自国の権益だけを主張するようになるとどうなるのか。
それは歴史がはっきりと指し示している。再び世界は戦争の恐怖におびえるようになるのだ。

私はもうおじさんだから、この先暗くなる世相を憂いながらも、まだ平和の残滓の中に生きることができるかもしれないが、若い世代は、今、イスラム国で行われているような惨状を、自らの国でも見るようになるのではないか。

愚かで恐ろしい世の中になったと思う。

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