六代目笑福亭松鶴、三代目桂米朝、三代目桂春團治、五代目桂文枝、いわゆる上方落語四天王は、技量が優れていただけでなく、優秀な門弟を育成したという点でも傑出していた。


六代目笑福亭松鶴(1918-1986)には全国的な人気を博した笑福亭仁鶴、実子の五代目笑福亭枝鶴(のち廃業)、ラジオで売り出した笑福亭鶴光、破滅型の笑福亭福笑、笑福亭鶴三、笑福亭松枝、笑福亭呂鶴、笑福亭松葉などの実力派の弟子がいた。
本来ならば惣領弟子の笑福亭仁鶴が七代目を継ぐべきだったが、一門が松竹芸能所属であるのに、仁鶴だけは吉本興業であり、会社が了承しなかった。実力筆頭の鶴三は、芸風がやや異なることもあり松鶴存命中に六代目笑福亭松喬となった。笑福亭鶴光は一門との交流がなく、今は東京の落語芸術協会に所属している。
晩年、松鶴は七代目を堅実な芸風の笑福亭松葉に託したが、松葉は襲名することなく1997年に死去。
2013年には六代目笑福亭松喬も死去。
残る顔ぶれでは、松葉のすぐ下で、今や国民的スターの笑福亭鶴瓶が適任ではないかと思うが、本人は受けないと思う。また八代目を継いだところで、その後継者がいない。惣領弟子の笑瓶は落語家ではない。銀瓶、達瓶などの達者な弟子がいるが、松鶴と言う柄ではない。
その下には芸風が師匠に一番似ている笑福亭鶴志がいるが、知名度が低く難しいように思われる。
このため、松鶴の名跡は宙に浮いている。

三代目桂米朝(1925-2015)門下は俊秀揃い、客分の月亭可朝、故三代目桂米紫、そして初の内弟子、昭和の爆笑王と言われた二代目桂枝雀、桂ざこば、故桂吉朝、実子の桂小米朝など、数も陣容も笑福亭を上回っていた。
実質的な筆頭弟子の枝雀は、この名前を不朽の大看板にしたために米朝を継ぐべくもなかった。その上に、師匠に先立って死んだ。
実子小米朝は、米朝の師匠米團治の名前を襲い、五代目桂米團治となる。米朝は代々米團治の前名だから、今更米朝の襲名はあり得ない。
おそらくこれは「米朝」の名前を「留め名」にしようという一門の意向だろう。
米朝の「地獄八景亡者戯」には、「米朝と言う名で死んだ噺家はおらんはずやが」というセリフがあるが、三代目米朝がその最初となった。米朝自身、一度も改名していない。
継ぐとすれば故吉朝だったように思うが、彼も師匠に先立って死去した。ざこばも、大きな名跡であるし、芸風も師匠とは異なるので継ぐことはないだろう。四代目桂米朝は、しばらく出ないのではないか。

三代目桂春團治(1930-2016)門下の筆頭は、桂春輔という噺家だったが「きちがい」と言う異名がある破天荒な噺家だった。端正な春團治とは芸風が全く違っていた。のちに破門される。次の桂福團治は、春團治の前名を継いでいる。四日市市出身、他地方の訛りを完全に克服した唯一の噺家。しかし、芸風は華やかな三代目とは大きく異なる。自身も立川談志に傾倒し、「鼠の穴」などの人情噺に打ち込んだ。リアリズムは素晴らしいが陰気な芸風。続く桂春蝶は、やせぎす、飄々とした雰囲気だったが、話は非常に達者。ストーリーテラーであり、春團治の持ちネタも演じた。名を継ぐのはこの人しかないと思われたが、1993年に死去した。酒好きでほとんど飯を食べなかったが、死因は肝硬変だった。
その下は春之助若いころは化粧品会社の女性販売員の贔屓が多く、。男前で、華のある噺家だった。しかし噺は間が悪く、今一つだった。私は米朝、春蝶の酒席に連なったことがあるが、米朝が「助やん(春之助)は、下手やなあ」と嘆息したのを聞いた。これはダメと言うことではなく「惜しい」ということだ。
このたびの四代目春團治襲名は、他に候補もおらず、妥当なところだ。同期の上方落語協会会長桂文枝の盟友として協会を支えてきた功績も大きい。名前が変わって芸風もよくなる可能性はあるだろう。

五代目桂文枝(1930-2005)の惣領弟子は桂三枝。落研出身落語家の草分けであり、吉本興業の大スターとなるが、1980年ころから創作落語に打ち込み、一家をなす。上方落語協会会長に就任すると協会の悲願であった落語定席「天満天神繁盛亭」を設立。この功績は不朽だ。本人は桂米朝に私淑していたが、師匠の没後、六代目を襲名した。本命の惣領弟子が師匠の名を継いだのは、四天王では文枝門下だけ。一門には文珍、きん枝、小枝などの噺家もいるが、実力、知名度でも文枝の襲名の異論のあるはずもない。

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こうしてみると、大名跡を継ぐにも運やタイミングがあることがわかる。六代目文枝は、春團治の襲名を喜び、松鶴、米朝も復活させたいと話したが、東京の桂文楽、桂文治、柳家小さんなどの名跡が、筋目の襲名によって小さくなったことを考えると、無理をして名前をそろえる必要はないように思う。


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