私が若い頃、右翼といえば「憂国」の旗を掲げ、眉根を潜めて「今の日本はなっとらん!」と言っている人たちだった。
そういう怖い顔をして、企業や役人を叱りつけて何かをせびっている人たちという印象だったが、今の日本には「満足していない」のが基本的なスタンスだった。この点では全く反対方向から「今の日本は問題だ」と言っていた左翼と鏡のような関係だったわけだ。

しかし今の「右翼」というか、安倍晋三応援団は「日本万歳」である。私などが日本の問題点を指摘すると「日本の悪口を言うな」「日本だけが悪いみたいに言うな」である。昔の右翼のように「日本のこういうところがけしからん」というのではなく、「日本の悪口を言うのは許さないぞ」というスタンスだ。
このあいだ、旭日旗を振り回していたのが中日ドラゴンズのユニフォームを着ていた、と言ったら「なぜ中日っていうのだ」という文句が来たが、これなども同様で、どんな物事であれ、「自分が身びいきしている対象に対するネガティブ情報は許さないぞ」と言っているのだ。それがファンというものだと思っているらしい。

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要するに「日本に対する批判」「安倍晋三に対する批判」は、全部許さない、と言っているわけだ。そういう人は批判の中身を見て、吟味したり判断したりしない。「悪口を言うやつは全部敵」というスタンスなのだ。プロ野球のスタジアムの外野に陣取って、試合展開などお構いなしに「ホームラン、あべちんのつけ!」と幼稚なお遊戯をしている「野球ファン」と同じレベルなのだ。

今、世間を賑わせている「桜を見る会」問題というのは、右だ左だというのを度外視して、安倍晋三の周辺があまりにもお粗末で、リスクヘッジも何もできていないことを露呈したと思うが、そういう問題でも今の右側の人は中身のことは全然判断せずに、「安倍晋三の悪口を言うのは許さないぞ-」と言っているわけだ。

実はそういうおめでたい「安倍晋三ファン」の後ろには、絶対に声は上げないが、安倍晋三を支持する層がいる。高齢の富裕層だ。脳天気な「安倍ちゃんファン」と一緒くたにされるのはプライドが許さないが、安倍政権が円安株高を誘導し、貧富の格差を拡げてくれれば確実に懐が潤う。今の大企業がこぞって安倍シンパなのはそういう理屈だ。

安倍晋三は日本会議など伝統的な右翼の評判もいい。彼らは「憲法改正」など大日本帝国への回帰を安倍晋三が実現してくれることを期待している。安倍晋三にとっても「じいちゃんの夢」を実現するのは悲願のはずだ。

しかし安倍政権は、実は結構おかしなことになっている。
私は冷泉彰彦さんの言うことを信用しているが、最近、NewsWeekでこんな事を言っている。

安倍政権を歴代最長にした政治的要因と、その限界

第二次政権になってからは様子が違います。「意図せざる効果」なのかもしれませんが、(安倍政権は)保守イデオロギー勢力を味方につけることで、リベラルな政策を安心して進めることができているのです。
例えば、中国・ロシアとの関係改善、入管法の改正、新元号の前倒し発表、TPP11など自由貿易の推進、児童手当の拡充、オバマ米大統領との相互献花外交、靖国参拝の自制などです。もしかしたら女性宮家創設もやるかもしれません。こうした政策については、仮に中道左派系の政権が進めようと思えば、保守派が反対して立ち往生する危険がありますが、安倍政権の場合は「保守派を取り込んでいる」ことで比較的スムーズに進めることが可能になっています。


久しぶりに知的な興奮を覚えた。極右と言われる安倍政権になってから、中国、ロシアと仲良くしたり、弱者救済や女性尊重など、リベラル的な政策がどんどん実現しているというのだ。
そういや現政権になって反古にされたが、従軍慰安婦問題で韓国と決着したのも安倍政権。労働者のために「働き方改革」を推進したのも安倍政権。ハンセン病の問題を解決したのも安倍政権。民主党にもできなかったことを実現するなんて、すばらしいじゃないか!

ひょっとしたら安倍晋三はリベラルなんじゃないか?
でも今の右翼、安倍支持層は「中身を吟味して支持している」わけではなく「安倍晋三のやることなら何でもOK」の人たちだから、リベラルな法案に反対することはない。そもそもリベラルの意味を理解していないのだから。

冷泉さんは

左派が激しい敵視をやめないので、イメージ的には保守派は「やはり安倍政権は保守だ」と安心してくれる、そのために中道政策を強い抵抗なく進めることが可能になっている、そんなメカニズムも機能しています。ある種の偶然のなせるわざです。

と書いている。安倍政権は本当は憲法改正や再軍備や右っぽい政策をどんどん推進したい。そのための「まき餌」として口当たりのよい政策を推進してきたのだろう。
でも「本丸」である憲法改正や、その先の政策は、ハードルが高いし、全く機運が盛り上がらない。ひょっとするとまき餌ばっかりして、獲物を取らないままに安倍政権は終わるのではないか。

そういう様相も見えてきた。安倍晋三はちょっといらいらしているのではないか。

安倍晋三は「民主主義の破壊者」だと思うが、結果的にリベラル政権が実現することができなかった政策をどんどん実現してくれたのなら、それはそれで良かったとも思う。


榎本喜八 安打あれこれ

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